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半導体の基礎知識(5)――ワイヤレスに必要な半導体津田建二の技術解説コラム【入門編】

IoT(Internet of Things)時代を迎えると、インターネットにつながるデバイスが増えてきます。どのデバイスにもワイヤレス(無線)回路が必要になります。ワイヤレス回路の役割は、無線でデバイス同士をつなぐことです。ワイヤレス回路の基礎は、無線技術関係の教科書をご覧になれば詳しく学ぶことができますので、ここでは実用的な基礎知識を紹介します。

» 2014年10月13日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 IoT(Internet of Things)時代を迎えると、インターネットにつながるデバイスが増えてきます。どのデバイスにもワイヤレス(無線)回路が必要になります。ワイヤレス回路の役割は、無線でデバイス同士をつなぐことです。ワイヤレス回路の基礎は、無線技術関係の教科書をご覧になれば詳しく学ぶことができますので、ここでは実用的な基礎知識を紹介します。

 ワイヤレス(Wireless)とは文字通り、線(wire)がない(less)という意味です。線なしでどうやって情報を送るのでしょうか。基本的には、電磁波(搬送波と呼びます)に情報を乗せて電磁波を送ります。電磁波は交流です。交流の波を空気中に飛ばすことでデバイスからデバイスへと伝えます。空気中ではなく水中だと電磁波は水に吸収され長い距離を伝わりません。例えば潜水艦や漁船がソナーと呼ばれる超音波による送受信機を使って、海の中を交信しています。空気中では波長によって性質は異なりますが、電磁波が遠くまでよく通ります。

 では、電波を飛ばすために必要な技術は何でしょうか。電波を発生するための共振器が必要です。それを効率よく外へ飛ばすためにアンテナが必要です。アンテナもやはりLC(コイルとコンデンサ)からなる共振器です(図1)。実際には共振器は抵抗成分を持っており(図1の左)、これがロスになります。共振回路を試作してもシャープな波形が得られないのはロスによるものです。ロスが少ないコイルやコンデンサ(キャパシタ)を使ってもそれをシャープな波形にするために、余分な周波数成分をカットしよう、という役割がフィルタです。

図1 コイルとコンデンサの共振器

 では、情報をどうやって電波に乗せるのでしょうか。例えばラジオや携帯電話機のように音声を送る場合には、音声を電気の交流信号に変え、その交流信号と、共振器で作られた電磁波の信号をミックスします。ラジオやテレビの電波が空中に飛んでいるということは、音声信号と映像信号(テレビ)を電磁波に乗ってテレビ塔から運ばれているのです。

 アナログ信号を電磁波にそのまま混ぜると、音声の振幅に沿って電波が混じるので、振幅を変調していることになります。振幅変調(図2)は音が小さいときは電波の振幅も小さくなりますので、雷や自動車のエンジンからの点火による雑音電波の影響を受けやすくなります。これに対して、FMラジオは音声の振幅を一定にして、位相の幅を音の大小に応じて変える(変調する)ので、振幅を確保しておけばノイズの影響を受けにくく、音質を確保できます。FMラジオがノイズに強く、AMラジオがノイズに弱いのはこのためです。

図2 低周波の音声信号に高周波の搬送波を乗せる

 欲しい情報を変調する方式はアナログだけではなく、デジタル方式もあります。最近ではデータをたくさん送れるデジタル方式のシステムが増えているので、デジタル変調が増えています。デジタル変調は、振幅変調のASKや位相変調のPSKなどがありますが、直交座標を使って両社の良いとこどりをするQAM(quadrature amplitude modulation:直角位相振幅変調)方式が携帯電話機やスマートフォン、デジタルテレビ(地デジやケータイテレビ)などによく使われています。

 例えば、16-QAMと表現されるのは、0000から1111までの16レベルを同時に送ることができます。そのために搬送波と直交する搬送波の振幅や位相を変調します。搬送波をSin(サイン)とすると直交波はCos(コサイン)で表されます。SinとCosの振幅をそれぞれ-1.0、-0.5、0.5、1.0とし、それをI軸(横)とQ軸(縦)で表現します。第1象限から第4象限までに4つ (4ビット) ずつ割り当てることで16レベルの値を表現した変調方式です。I-Q座標で、16個の値を並べた図はまるで星座のように見えるので(図3)、コンスタレーション(constellation)と呼びます。16-QAMは16値(4ビット)ですが、64値(6ビット)だと64-QAMとなり、8ビットの情報を一度に送ることができます。デジタル変調の良いところは、たくさんの情報を送ることができることです。ただし、送る情報が多すぎると、ノイズに弱くなるという欠点があります。

図3 I軸とQ軸で表現した16-QAMの例 この図を星座のように見えることからコンスタレーションと呼んでいる

 飛んでいる電波をキャッチする受信機は、送信機の逆の操作を行います。まずアンテナ(共振器)で欲しい周波数の電波を共振器(図1と同じ)で捉えます。捉えた電波が弱いのでアンプで増幅し、さらにフィルタをかけて電磁波から欲しい情報を取り出します。

 では、高周波からどうやって低周波信号(例えば音声やテレビ信号)を採り出すのでしょうか。皆さんの中にギターなどの楽器を楽しんでおられる方がいると思います。ギターのある弦の音の近い弦を同時にひくと、「うなり」(ビート)を生じます。うなりの音は弦の音よりも周波数は低くなります。うなりの周波数は、それぞれの周波数の差になります。実は受信機はこのビートの原理を用いています。つまり、受信した電波に、受信機の中に局部発振器(ローカルオシレータとも言います)を作り、2つの電波をミックスしているのです。このようにして低い周波数の電波を取り出します。

 その後、変調された信号を復調回路で元に戻します。変調をモジュレーション(modulation)、復調をデモジュレーション(demodulation)と言いますが、送信用の変調器と受信用の復調器が入った回路を両社のアタマをとってモデム(modem)と呼びます。テレビやラジオの変調方式は実は国や地域で異なります。だから復調回路を世界中に販売しようとすると、それぞれの地域に向けて作り直さなければなりません。これではとてもコスト的に合いません。そこで、世界各地の変調方式をソフトウエアでプログラムし、それをフラッシュなどのメモリに格納しておき、地域ごとに呼び出して使えばハードウエア回路は一つだけにして、ソフトの切り替えだけで方式を変えることができます。これがソフトウェア無線(SDR:software defined radio)です。世界のデジタル放送方式は周波数もバラバラです。このため、モデムの前の回路(RF回路)を広帯域にしてフィルタも設け、各地の周波数に合わせる技術も重要になってきます。最近アナログデバイセズが力を入れているSDRはRF回路です。

 モデムと少し紛らわしい言葉でコーデック(codec)があります。これはアナログをデジタルに変換したり圧縮したりしてコード化(符号化:code)する回路と、そのコード化した回路を元に戻すことをデコード(decode)と呼び、両方の回路をコーデックと呼びます。画像や音声、映像などを圧縮し、それを元に伸長する回路がコーデックです。

 さて、携帯電話機やスマホでは、受信と送信が同時に行われているように聞こえています。昔のトランシーバだと、「こちらは“xx”です、“yyさん”どうぞ」という具合に、受信と送信を手動で切り替えています。携帯電話機では実は自動的に切り替えています。もちろん、この切り替えが人には分からないほど高速に行われていますので、まるで同時に送受信できていると錯覚しています。

 以上が携帯電話機など送受信機の基本的な仕組みです。ではこういった仕組みのどこに半導体が使われているか、最初から探してみましょう。音やデータをまず電気信号に変換し増幅するアンプ、デジタル変調ならA-Dコンバータ、電磁波と信号を混ぜるミキサー、変調器、電波を強く飛ばすためのパワーアンプ、共振器、受信するアンプ、局部発振器の周波数シンセサイザ、復調器、コーデック、デジタル処理回路、デジタルインタフェース、D-Aコンバータ、送受信スイッチなどがあります。これらは全て半導体で実現します。

 これらの無線回路がスマホのチップの全てではありませんが、通信部分の基本はこれらのチップです。携帯電話機やスマホだけではなく、IoTのセンサーネットワークのセンサモージュールや、Bluetooth、Wi-Fi、WiMAX、ZigBeeなどありとあらゆる無線通信技術にこれらの半導体が使われます。しかも、携帯電話機をはじめとする電子機器では、全ての回路を動かすために、安定化電源回路が必要です。さまざまなICの電源電圧が1.2V、3.3V、5V、7Vなど様々あり、それをわずか1個の3.6Vリチウムイオン電池から変換しています。その電源ICはDC-DCコンバータと呼ばれており、この電源ICも市場の機会がたくさんあります。

Profile

津田建二(つだ けんじ)

現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。

30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。




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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
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