今日、多くの産業機器のモーション/モータードライブコントロールの用途において、モーター制御の効率を改善することは重要な要件である。産業システムとその用途はますます複雑になり、市場競争に勝つために設計者がサポートしなくてはならない機能やオプションは確実に増えてきている。本稿では、モーター制御の基本や、設計者がFPGA技術とモーター制御用IP(Intellectual Property)を適用して、次世代のモーター制御システムを設計する利点などについて、前編と後編の2回に分けて述べる。
Jason Chiang
米Altera社 産業事業部門
シニアテクニカルマーケティングマネジャー
産業機器/システムにおいて、できるだけ広く市場をカバーするためには、1つの製品で複数の産業用イーサネット(IE)規格とフィールドバス規格をサポートする必要がある。最新のICチップは、演算処理能力あたりのコストが下がり、より低価格で高性能の駆動能力を提供できるようにはなった。半面、市場における競争が激化し、産業システムの設計者は製品化までの期間短縮と製品コストの削減という大きなプレッシャーに直面している。
このような市場からの圧力に対処していくには、同一のプラットフォームを利用して製造の効率を向上できるような、柔軟なソリューションを実現しなくてはならない。例えば、フレキシブルモーション/モータードライブコントロールソリューションを導入した工場の情報システムや制御ネットワーク、製造システムは、工場やオフィス、複数工場での効率的な通信を実現するイーサネットとフィールドバス技術を介して、高いシステム相互運用性を維持したまま、新しいアプリケーションにもすばやく、かつ低コストで再構成することができる。
産業用モーターの制御には、マイクロコントローラ(MCU)やDSPといった汎用のICチップが長年使用されてきた。現存のソリューションにはこれらのICチップの性能で十分かもしれない。しかし、これらのICチップは回路が固定されたハードウエアで設計されるため、機能を強化・更新するにはソフトウエアで対応するしかなく、特定用途向けに最適な機能を開発する手法は制限される。
これに対して、FPGAを使えばプロセッサや産業用イーサネット/フィールドバス規格、個別のモーターインターフェース、およびDSPなどの機能を1つのチップに統合できる。その上、ハードウエアとソフトウエアの両方をカスタマイズすることができ、特定アプリケーションの要件にも完全に適応することが可能である。必要とする機能をハードウエアで実装できるため、処理速度が速く、ソフトウエアの移植も簡単だ。こうした自由度の高さが、システムパフォーマンス、特にモーター制御におけるエネルギー効率を格段に向上させることとなる。
近年の産業機器におけるエネルギー効率の向上は、モーター制御技術に依存するところが大きい。電力変換器をベースとした可変速運転を行えば、それを使っていない前世代のモーター制御に場合に比べて、エネルギーを最大88%節約することができることが可能である。モーターコントローラの役割は、モーターの電気的な駆動を制御することでモーターの出力を制限することである。そして、エネルギーの総消費量を最小限に抑え、モーターの機械部品の磨耗を軽減する。エネルギー消費量の観点から見て、市場の期待に応え、製品寿命を通じてコスト競争力を高めつつ、環境規制や電源規制に準拠するためには、こうした特徴を備えたモーター制御の設計が必要とされる。
モーター制御システムは、機械制御機器、製造装置、組み立て装置、パッケージング装置、ロボティクス、CNC(コンピュータ数値制御)工作機械および印刷装置の要となるものである。しかし、モーター制御の手法は使用されるモーターの種類によって異なる。これらのアプリケーションで使用されるモーターは、ブラシレスDC(BLDC)モーター、ステッピングモーター、AC非同期モーター、AC誘導モーターが最も一般的である。
今日の産業機器に広く使用されているモーター制御システムには2つのタイプがある。1つは分散型駆動制御システム(図1)で、モーターコントローラがすべてのモーション制御計算(速度、ベロシティ、位置)を実行し、ローカルフィードバックループを構成して関連するモーターを制御する。 これらのモーターコントローラ(またはドライブ)は、フィールドバスまたは非リアルタイムのイーサネットを介して、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)と通信できる。
もう1つの集中型駆動制御システム(図2)では、モーターコントローラが高速リアルタイムイーサネットを使用してPLCと通信し、フィードバックループをそのままPLCまで延長する。つまり、高性能PLCがすべてのモーション制御計算を実行できるため、より単純で低コストのモーターコントローラを使用することができる。
第1回 デジタル信号処理にみる DSPとFPGAの正しい選び方 (前編)
第2回 デジタル信号処理にみるDSPとFPGAの正しい選び方(後編)
第3回 SimulinkモデルからHDLを生成 FPGAにDSP機能を実装する(前編)
第4回 SimulinkモデルからHDLを生成 FPGAにDSP機能を実装する(後編)
第5回 スマートグリッドにおけるFPGAの役割(前編) 新しい「省エネルギー対応」住宅を実現する
第6回 スマートグリッドにおけるFPGAの役割(後編) 新しい「省エネルギー対応」住宅を実現する
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