パワエレ技術研究所 所長 工学博士 田本 貞治 ※
※株式会社ユタカ電機製作所に在籍後、パワエレ技術研究所を設立。専門分野:UPS、高精度交流電源の設計開発、デジタル電源の研究開発
先の震災では、広域な停電発生により重要な装置の電源が喪失して大きな問題になりました。一方、高速インターネットの拡大とともに、家庭においても光通信電話が普及してきましたが、この光通信電話は停電になると使えなくなり困った方も多かったと思われます。このような停電時に威力を発揮するのがUPS(無停電電源装置)です。UPSは、商用電源が供給されている常時は内蔵されたバッテリを充電しておき、停電するとバッテリに蓄えられたエネルギーを交流電力に変換して、光通信電話のモデムやパソコンなどに電力を供給し続けます。また、重要なデータが保存されているサーバーなどは、UPSを設置しデータが失われることがないようにすることが必須となっています。そこで本稿では、オフィスや家庭で使用できる小型UPSの動作システムや回路技術について解説します。
UPSには大別して2種類の方式があります。ひとつは、商用電源が供給されているときはそのまま出力し、停電が発生した時だけバッテリから交流電力に変換して各種装置に供給するオフラインUPSと、もうひとつは、目に見えない瞬時停電などでも安定した電力を出力し続けるオンラインUPSとがあります。本稿では、このオフラインUPSとオンラインUPSについて2回に分けて解説します。今回は2回目としてオフィスや産業用途で使用されるオンラインUPSについて解説します。
オンラインUPSは常時インバータ運転方式とも言われ、図1のように商用電源があるときはバッテリを充電するとともに、商用の交流電力を直流電力に変換し、更にDC-ACインバータで交流電力に変換して負荷となるサーバーや各種装置に供給します。停電したときは、バッテリからDC-ACインバータを介して負荷に電力を供給し続けます。万が一装置自身が故障したときは、AC入力を出力にバイパスする直送回路に切換えて商用電力を負荷に供給し続け、UPSを停止しないようにして信頼性を向上しています。そのため、オンラインUPSはオフラインUPSと比較すると回路が複雑になっており、価格もかなり高価であることは否めません。
オンラインUPSでは、商用の交流電力を一旦直流電力に変換します。そのため、商用の電圧変動や雷サージのような異常電圧が入ってきても、直流電力に変換される過程でその影響が吸収されてしまいます。その結果、外部からの異常電圧などに対して強くなっており、サーバーなどの信頼性が要求される装置の誤動作を防止できます。また、内部の直流電力は一旦内蔵しているコンデンサに蓄えられるため、目に見えないような瞬時停電が発生してもコンデンサに蓄えられた電力でカバーすることができ、瞬断することなく負荷に電力が供給され続けます。その結果、停電発生時はオフラインUPSのような瞬断が発生せず連続的にバッテリ運転に切換えることができます。
オンラインUPSのDC-ACインバータは商用電源と同じ歪の少ない正弦波交流電圧が出力されます。さらに、モーターやトランスなどの誘導性負荷にも耐えられる回路と制御方式が採用されています。そのため、接続できる負荷には特に制約はありません。前回のオフラインUPSで説明しましたPFC回路にも問題なく対応できます。
オンラインUPSはオフラインUPSと比べて割高であることを説明しましたが、やはり価格競争は厳しいので、高価なニッケル水素バッテリやリチウムイオン・バッテリが使われる割合はまだ少ないと言えます。やはり、鉛バッテリが一般的です。しかし、近年小形でエネルギー密度が大きく軽いリチウムイオン・バッテリの使用割合は少しずつですが増えてきています。
ここからはオンラインUPSで使われる回路を見ていくことにします。オフラインUPSとは異なり信頼性の要求レベルも高いのでそれなりに回路が工夫されています。
オフラインUPSでは商用電源をそのまま出力するため、入出力は絶縁されていません。しかし、オンラインUPSの場合は、信頼性を考えると、入力と出力を絶縁すべきか、非絶縁のままでよいかの問題がでてきます。入力と出力が絶縁されていた方がサージ電圧やノイズなどの遮断効果は大きいので望ましいのですが、トランスを使用するため価格が上昇し変換効率も低下するので、以前は絶縁方式が採用されていましたが、最近の小形オンラインUPSは殆どが非絶縁方式です。非絶縁方式でも負荷として接続される装置は元々商用電源で動作しますので、特に問題はありません。
この場合の注意事項として、出力(負荷)のニュートラルラインは安全のためにアースに対して電圧が発生しないようにする必要があり、入力(電源)のニュートラルラインと接続されていることが必須です。このように、電源ラインのニュートラル側が入出力の共通ラインになります。交流はプラスマイナスに変化するので、図2のように回路もこれに対応していなければなりません。以降ではこのような非絶縁型UPSで使用される回路について説明していきます。
バッテリ充電器はオフラインUPSより出力容量を大きくして短時間で充電できるようにし、短い時間間隔で停電が繰り返されてもバックアップ時間が足らなくならないようにしています。また、オンラインUPSは高価なためUPSの期待寿命も長くなっています。それに合わせてバッテリも使用できることが重要になるので、バッテリの寿命が短くならないように最適な充電が行えることが要求されます。重要なサーバーなどがバッテリの充電不足や寿命のため、停電発生時にバックアップできない事態が起こらないようにしないと、高価なオンラインUPSを設置した意味がありません。
オンラインUPSでは出力電流を大きくして短時間で充電できるようにするために、オフラインUPSで使用されるフライバック・コンバータの代わりに、図3に示すフォワード・コンバータが使用されます。これは出力容量として数kW程度まで使用できる回路なので、小形オンラインUPSの充電器としては良い回路方式といえます。
バッテリは、温度が高くなると寿命が短くなります。そのため、装置内部の発熱がバッテリに伝わらないような構造設計が必要になります。直射日光が当たるような場所にUPSを設置して温度が高くなると、バッテリばかりでなくUPSそのものの寿命も短くなるので注意が必要です。また、周囲温度が低くても過充電になると寿命が短くなります。鉛バッテリの場合、バッテリ寿命を維持するために、バッテリの周囲温度に合わせて充電電圧を変化させます。一般的に-3mV/℃/セルの温度傾斜を持たせます。すなわち、周囲温度が高くなると充電電圧を下げ、周囲温度が低くなると充電電圧を上げるように制御します。充電方式は、オフラインUPSで説明しました定電圧・定電流方式が適用されます。
オンラインUPSでは、商用電源を一旦安定した直流電圧に変換し再び交流電圧に変換します。そのため、入力側にはAC-DC変換回路を実装します。この回路には、オフラインUPSで説明しましたPFC(力率改善)回路が使用されます。一般的なPFC回路は1石式が使用されますが、小形オンラインUPSでは、後段に接続されるDC-ACインバータの関係から、プラスとマイナス2出力の直流電圧が得られる回路が使用されます。
交流電圧を整流してプラスとマイナスの電圧が得られる回路は、図4示すダイオードを2個使用した半波整流回路が使われます。この回路のダイオードの代わりにトランジスタを2個使用すると、図5に示す入力が交流で出力がプラスとマイナスの2電源が得られるハーフブリッジPFC回路ができます。しかし、汎用のPFC専用ICは、この回路のような2個のトランジスタを制御できるものがありませんので、前回のオフラインUPSで説明した回路でPFC回路用専用ICを使用することになります。この回路はトランジスタ1個を駆動する出力になっています。そこで、図6に示すように、トランジスタ1個でプラスマイナス2回路を出力するために、ダイオードを4個使用したブリッジ回路とトランジスタとを組み合わせた回路が使用されます。このような回路にすることで汎用のPFC専用ICを使用した2出力用PFC回路を実現できます。
バッテリ電圧が12Vや24Vの低い電圧からプラスマイナス2出力を得るための昇圧回路としては、オフラインUPSで説明しましたプッシュプル・コンバータを使用します。ただし、オフラインUPSでは1出力ですが、オンラインUPSではプラスマイナス2出力になるため、図7のようにダイオードを4個使用したフルブリッジ回路に変更します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月31日
津田建二の技術解説コラム【海外編】に知ってるつもりの外国事情(6)――IMECに見る研究開発のあり方を追加
津田建二の技術解説コラム【歴史編】に半導体の温故知新(6)――MOSトランジスタの次はTFET?を追加
津田建二の技術解説コラム【入門編】に半導体の基礎知識(6)――パワー半導体の広がりを追加
津田建二の技術解説コラム【海外編】に知ってるつもりの外国事情(5)――ネットワーキングを積極的に活用しようを追加
津田建二の技術解説コラム【歴史編】に半導体の温故知新(5)――ノーベル賞を受賞した半導体デバイスは実用的かを追加
津田建二の技術解説コラム【入門編】に半導体の基礎知識(5)――ワイヤレスに必要な半導体を追加
津田建二の技術解説コラム【海外編】に知ってるつもりの外国事情(4)――業界用語の常識を海外と比較するを追加
津田建二の技術解説コラム【歴史編】に半導体の温故知新(4)――IBM30億ドル投資の裏にCMOSの凄さありを追加
ソリューションライブラリ「デジタルフィルターとアナログフィルター(4):デジタル信号処理を徹底比較! フィルター特性と窓関数も解説」を追加
津田建二の技術解説コラム【入門編】に半導体の基礎知識(4)――IoTを定義しようを追加
Solution-Edge関連ニュースに信号の絶縁とAD変換が1つでできる便利な素子 AD7403を追加
ソリューションコラムにアナログ・デバイセズの実用回路集「Circuits from the Lab」の使い方を追加
2014年9月、ルネサス エレクトロニクスのイベント「DevCon Japan2014」にて、加賀デバイスブースにてソリューションエッジのインターポーザボード「SE SP-01」を使ったデータ・アクイジション・システムのデモが披露されました。今回は、このデモの詳細を加賀デバイスの開発担当者自らがご紹介します。
アナログ・デバイセズの実用回路集「Circuits from the Lab」を活用して、ルネサス エレクトロニクスのマイコン評価環境とつないで、お手軽、簡単データアクイジションシステムを構築してみましょう!
ソリューションコラムでは、これまでSE SP-01を使用したさまざまなバリエーションのデモをご紹介してきました。今回ご紹介するのは、アナログ・デバイセズの超低消費電力18ビット1Mサンプル/秒のA/DコンバータAD7982を、なんとGR-KURUMIを使用して制御&デバッグをします!
電子工作好きの皆さんにはおなじみの小型電子工作ボード(ガジェット)「GR-SAKURA」。このGR-SAKURAにセンサーを接続していろいろな装置作りにチャレンジしている方も多いと思います。そして、いろいろ工作しているうちに「もっと高精度なセンサーを使いたい」という欲求が生まれているかと思います。でも、高精度センサーをGR-SAKURAを接続するには、結構な技術力が要求されます。そこで、今回、Solution-Edgeオリジナルのインターポーザボード「SE SP-01」を使って、GR-SAKURに高精度センサーを手軽に取り付ける手順とプログラムをご紹介します。ぜひ、皆さんもSE SP-01でGR-SAKURAを究極まで進化させてください。
前回のソリューションコラムでは、SE SP-01を使って手軽にシステム構築ができる一例を紹介しました。今回は、前回に組み上げた評価環境を実際に動作させていく様子をご紹介します。SE SP-01の素晴らしさを、よりご理解頂けると思います。
アナログ・デバイセズ製の各種デバイスと、ルネサスエレクトロニクス製マイコンボードを簡単につなぐことができるようになるインターポーザボード「SE SP-01」。実際どれくらい簡単なのでしょうか。早速、SE SP-01を使ってシステムを組んでみましょう。