民生用機器、産業用機器といった用途を問わず、電子回路では、クロック信号が重要な役割を果たしている。その信号源として用いられるのが水晶振動子や、同振動子を用いて構成した水晶発振器である。本稿では、この水晶発振器の仕様や使い方について4回にわたって解説する。今回はその第1回目として、水晶発振器のベースとなる水晶振動子について詳しく解説する。
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デジタル回路、アナログ回路、デジ/アナ混在回路、高周波回路など、電子回路はさまざまに分類される。こうした種類を問わず、ほとんどの電子回路で重要な役割を果たすものの1つがクロック信号である。また電子機器には、携帯電話機、デジタルカメラ、FAX、デジタルテレビ、AVアンプ、DVDプレーヤといった民生用機器、あるいはカーエレクトロニクス、医療用機器、産業/工業用制御機器、測定機器といった種類があるが、いずれの用途においても、システムを構成する重要な要素としてクロックが用いられる。クロックの種類としては、マイコンなどの比較的単純な動作用クロックから、回路の動作のみならず、精度にまでも直接影響を及ぼす精密基準クロックまで多種多様である。こうしたさまざまなクロックを生成するために用いられるものが発振器である。
本稿では、クロック信号を発生する機能を有する製品、すなわち、水晶発振器(クリスタル発振器、クロック発振器などとも呼ばれる)について、その基本と各種特性項目、使い方、応用例などについて解説する。それにあたって、詳細については後ほど順に説明していくのだが、本稿では以下のように用語を使い分けることにする。
上記の用語については、メーカーによって呼称に差異があること、また本稿での解説をスムーズに行うために、便宜的に定義した部分がある(つまりは、これが必ずしも一般的な定義だというわけではない)ことにはご注意願いたい。
さて、本稿で主に扱うのは、上に列挙したもののうち、水晶発振器である。ただし、実際のアプリケーションでは、単体の水晶振動子と、発振回路(いくつかの構成要素はICに内蔵されていることもある)を組み合わせて発振器を構成することも多い。その場合にも、特に本稿の前半で述べる内容を役立てることができるはずである。なお、本稿では、高周波通信用途向けの特殊な製品については扱わないことにする。
図1に最も一般的な水晶発振回路を示す。この回路は、インバータ(1段構成のもの。ICを用いる場合、HCシリーズであれば、「HC04」ではなく、「HCU04」タイプ)を負性抵抗アンプとして用い、水晶振動子、帰還抵抗RF、振幅制限抵抗RD、負荷容量CL1、CL2で構成したシンプルなものである。単純にクロックが得られればかまわないという用途であれば、多くの技術者が、さほど厳密に検証することもなく用いているものであろう。“結果オーライ”で何らの不具合も発生しないケースもあるが、実際には、発振周波数の精度(誤差)、発振安定マージン、温度ドリフトなどの要素については慎重に検証しなければならない。
水晶発振器の基本となり、その基本性能を決定する要素は、水晶振動子の特性である。水晶発振器は、水晶振動子の特性を最大限に活用したものだとも言える。水晶振動子の特性については、供給メーカー各社から詳細な解説資料やアプリケーション資料が提供されており、その内容を理解するのは難しいことではない。水晶発振器のほとんどは、そうした要素について知り尽くした水晶振動子のメーカーが供給している。そのため、そうした製品を使用する分には、水晶振動子や発振回路の詳細についてまで細かく検証を行う必要はないかもしれない。しかし、水晶発振器のユーザーとしても、その特性を理解するためには、ある程度の知識を持っておくべきだと言える。こうした観点から、今回は水晶振動子、ならびにそれを用いた水晶発振回路の基本について解説する。
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