DC-DCコンバータの性能改善が著しい。半導体メーカーが優れた制御ICを数多く開発しているからだ。そうしたメーカーは詳しい技術資料も提供しているので、ともすれば設計者は「DC-DCは簡単だ」と錯覚してしまう。しかし、技術資料をよく理解した上で設計に取り組まなければ、思わぬ落とし穴にはまってしまう危険性がある。
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筆者は現在、電子機器やその内蔵基板の修理に従事している。修理品として顧客から預かった電源回路を確認したときに、DC-DCコンバータの隠れた設計不良が見つかったので皆さんに報告しよう。この設計不良は、新規設計のDC-DCコンバータの回路でもうっかり作り込んでしまう可能性が高く、“落とし穴”になりやすい。
最近のDC-DCコンバータは性能が飛躍的に高まっている。半導体メーカー各社が優れた制御ICを数多く開発・提供しているからだ。また、DC-DCコンバータの設計資料も豊富に入手できる。回路の構成例から使用部品の具体例、プリント基板のパターン例、評価方法など、懇切丁寧なドキュメントが準備されている。
このような恵まれた設計環境であれば、誰でもDC-DCコンバータの回路を設計でき、DC-DCコンバータは簡単だ――。そう思い込んでしまうかもしれない。しかし、回路例、部品例、パターン例を詳細に確認し、よく理解した上でDC-DCコンバータの回路を設計しないと、思わぬ落とし穴にはまってしまう。
今回は、筆者が手掛けた修理品で見つけた、DC-DCコンバータ回路の不具合事例を説明する。
日本の著名なメーカーのアナログ計測器で、一般向け仕様の製品に搭載されていたDC-DCコンバータである。電源として直流(DC)24Vを入力として、5Vと3.3V、±12Vの合計4系統の内部電源を生成する機能を備えていた。修理品として引き取った際の不具合情報としては、「画像レベルが安定せず、機器全体の動作も不安定である」と記載されていた。この計測器の取扱説明書を確認したら、トラブルシューティングの項目の中に同様な不良例が示されていた。その原因は「供給電源が不安定である」と記載されている。
電源部に不具合要因があると思われたので、現品からDC-DCコンバータ回路の2次側(出力側)の回路接続、部品実装を詳細に確認した。その結果、部品選定、パターン設計、部品配置という基本的な設計は非常に優れており、2次側のバイパス用コンデンサには低ESR(等価直列抵抗)を特長とする「OS-CON」が採用されていた。通電して複数系統の出力電圧のレベルと波形をそれぞれ確認したが、電圧値は設定値の±1%以内に、リップル電圧は10mVpp未満に抑えられており、理想的な電源だった。
ではなぜこの計測器の動作が不安定になるのか? DC-DCコンバータに外部から供給される電源の方に原因があるのではないかと考え、供給電源の波形を確認してみた。DC-DCコンバータ制御IC(Linear Technologyの「LTC1628」)の電源入力端子にオシロスコープのプローブを当てると……なんと! 6Vpp近い大きなリップル電圧波形が表れた。図1がその波形である。
これが計測器の動作不良の原因であることはほぼ間違いない。なぜ、DC-DCコンバータの入力側の供給電源にこのような大きなリップル電圧が発生するのか? これを確認するため、DC24V電源の接続をその入り口である計測器のDC入力端子からDC-DCコンバータまで追いかけてみた。
DC24V電源は、DC入力端子→ヒューズ→ノイズフィルタ→逆接続防止ダイオード→DC-DCコンバータ制御IC→電解コンデンサと、多くの部品を経由して制御ICへと供給されている。DC-DCコンバータの1次側(入力側)に実装されている電解コンデンサは3個あったが、静電容量はそれぞれ22μFであり、それが3個では合計でも66μFにとどまる。リップルを抑えるには少し足りない。また、電解コンデンサの型名から部品の情報を探し、許容リップル電流の定格を調べたら70mA程度しかなかった。3個のコンデンサの実装の様子を図2に示す。
1次側のコンデンサの静電容量が小さく、リップル電流の許容量もかなり少ない。どう考えても、これは初歩的な部品の選択ミスである。1次側の電解コンデンサ3個で合計210mA程度の許容量では、4系統の出力電圧を生成する合計4個のDC-DCコンバータ回路に十分な電流を供給できない。1次側電源の電圧変動(すなわちリップル)が大きくなるのは当たり前である。
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