ソレノイドを利用したシステムを構成するには、その特性を十分に理解するとともに、どのような制御回路方式を採用すべきかを熟慮しなければならない。本稿では、閉ループの電流制御方式を用いた設計の例を具体的に示す。
ソレノイドは、ある意味単純な部品である。しかし、直流ソレノイドを制御ループの構成要素として使いこなすのは簡単なことではない。例えば流体の流量を自動調節するためにソレノイドバルブ(電磁弁)を制御する場合などには、ソレノイドは1秒当たり数回の繰り返しでオン/オフに切り替わる。このような用途では、制御の実現方法が意外に複雑なものとなる。デジタル回路に慣れた人なら、リレーと同じようにロジック回路出力でソレノイドを単純に駆動したいと考えるかもしれないが、そのようなアプローチが適切でない用途もある。
ソレノイドの駆動用電源として電池を使用する場合、その電池には、ソレノイドとシステムのほかの要素を駆動できるよう電圧にある程度の余裕が必要になる。例えば、電池が寿命の直前にあると、ソレノイドの駆動に必要な平均電力は少なくても、ソレノイドに流れるピーク電流によって電池の電圧が低下することが問題となる。逆に電池の電圧が高すぎると、ソレノイドに過剰な電流が流れ、発熱によって故障する可能性もある。
ソレノイドを利用する回路では、電圧の不足によりソレノイドが動作しなかったり、ターンオン/ターンオフの遷移時間が長くなったりするという問題がある。ソレノイドを制御ループの要素として使用している場合に同様な問題が起きると、ループが不安定になり、ソレノイドの破損にもつながる。ソレノイドのコイルが焼損するといった最悪の事態もあり得るのだ。制御ループの要素としてソレノイドを使用する用途では、多くの場合、電流値を適切にコントロールする方法を用いることが不可欠である。
ソレノイドの電気的動作は、中空コイルとしての振る舞いとなる。ソレノイドは、プラスチックやセラミック、真ちゅうでできたボビンに励磁用コイルを巻き、鉄製ケースに収めるという基本構造を持つ(図1)。このボビンの外部にプランジャ(鉄芯)が突き出たり(図1(a))、内部に収まったり(図1(b))という具合に動作する。
ソレノイドのコイルに電流を流すと、ケース内を通る磁界が発生する。この磁界はプランジャにも及ぶ。ボビンはプランジャが運動するためのベアリングとしても働く。プランジャとケースの間の空隙が小さくなると磁界が強くなり、プランジャが機械的負荷に及ぼす力が強くなる。図1(b)のように、プランジャが移動してボビン内部に落ち着くと、プランジャとケースの間の空隙は最小になる。コイルに流れる電流によって磁界が発生し、その力によってプランジャは移動するが、磁界が空気中よりも鉄の中を通りやすいことから、プランジャを突き出し位置からケース内に引き込むときに、最大のコイル電流が必要になる。このような初期電流をターンオン電流、または引き込み(プルイン)電流と呼ぶ。プランジャがボビン内部に納まり、磁界がプランジャとケースとを貫通する状態になると、引き込み時よりも少ない電流でプランジャの位置を保つことができる。このときに必要な電流を保持(ホールド)電流と呼ぶ。
スイッチを駆動する代表的なリアクタンス素子に電磁リレーがある。電磁リレーとソレノイドはともにインダクタとして扱うことができ、この点では電気的に同等だといえる。しかし、両者に共通的な部分はこの範囲に限られる。ソレノイドは、リレーよりもむしろモーターに類似したものである。モーターと同じく、エネルギを別の種類のエネルギに変換する役割を果たし、通常は電気的エネルギを機械的な運動エネルギに変化させる。ソレノイドの運動は回転や直線的な動きになるが、一般的には1方向に動き、逆方向の動きにはバネやテコの力が利用される。両方向に運動するソレノイドもあるが、その場合、ソレノイドの駆動には2系統の駆動回路が必要になる。
ソレノイドはコイルの電流により過熱する恐れがあり、それを防ぐために通常はオンする時間を制限する。過熱の防止策としては、プランジャを引き込んだ後にコイルの電圧を下げる手法も用いられる。
ソレノイドの制御法を大別すると、開ループ制御と閉ループ制御の2種類に分けられる。一見すると、開ループ制御を採用し、ロジック回路出力によってソレノイドを駆動する方法が良さそうに思える。安定化電源さえ使用すれば、トランジスタを用いたスイッチング回路で開ループの電圧制御を行うことでも正常動作が可能であるように思えるからである。しかし、実際にはこの開ループの電圧制御は安定化電源だけで実現できるものではない。なぜなら、ソレノイドの動作特性のバラツキが問題になる恐れがあるからだ。例えば、オン時間とオフ時間は電圧変動やソレノイドの直流抵抗に依存して変化する。また、電源として熱電池(サーマルバッテリ)を使うと仮定すると、熱電池の寿命が近づいたときには、電圧の低下が10Vにも達する。従って、開ループ制御では、寿命が近づいたときの電池電圧を考慮して、ソレノイドを駆動可能な最小電圧を規定しておく必要がある。
一方、図2に示したのは、ソレノイドを要素とする閉ループ制御系の一例である。この制御系は、エンジンへの燃料供給バルブをソレノイドによって制御するという用途を想定したものだ。そのバルブはソレノイドによって開き、バネによって閉じる。コントローラからは、制御プロセスを実現するためにソレノイドを駆動する信号が送出される。ソレノイドに対する要求性能としては、バルブの開時間と閉時間、最大/最小のオン時間、デューティサイクル、繰り返し駆動による寿命などがある。このような閉ループの電流制御系は、開ループの電圧制御系より多くの構成要素を必要とする。また、制御ループの動作が制御プロセスを担うコントローラの動作を妨害しないようにしなければならない。
いずれにせよ、制御方法を選択する際には、ソレノイドの特性を十分に理解するとともに、制御すべきプロセスの動作パラメータについて十分に把握しておくことが不可欠になる。
以下では、主として図2の回路を発展させた例を示すことで、ソレノイドを利用した制御系について検討する。
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