データ処理/通信処理用途に用いられる高性能なブレードサーバーでは、バックプレーン電源をオンにしたまま内部のブレードを取り外して交換できるホットスワップ機能が求められる。これを実現するホットスワップ回路はありふれた設計では実現できない。本稿では、信頼性の高いホットスワップ回路の設計例を紹介する。
大規模な通信システムやデータ処理システムでは、プラグインに対応した複数のブレードサーバー(以下、ブレード)をラック内のサブ筐体に挿入する構造が用いられる。また、さまざまな機能を備えたブレードをサブ筐体に収めて、システムを柔軟に構築できるように、サブ筐体のバックプレーンにはブレード同士を接続するデータ信号線や−48Vなどの電源ラインが多数配線されている。さらに、このようなシステムは、24時間の継続的な動作が求められることが多い。つまり、バックプレーンの電源は常にオン(ホット)の状態にある。
このようなシステムでは、いずれかのブレードで故障が発生した場合、常にホットな状態のまま、故障したブレードを抜き取って代わりになる新しいブレードを挿入できなければならない。その際、新しく挿入されたブレードはバックプレーンからの電源を受けて直ちに動作を開始する。もちろん、この交換が要因となり、そのほかのブレードの動作を妨害することがあってはならない。
このように、ホットな状態のままでブレードのようなモジュールを抜き取り/挿し込み可能にする機能を、ホットスワップ(活線挿抜)機能と呼ぶ。ホットスワップは非常に有用な機能だが、これを実行する際にはどのような現象が発生し、どのようなことが課題になるのだろうか。
まず、ブレードがバックプレーンに接続される場合、コネクタ端子はバウンシングしながら接触することになる。ホット状態における接続なのでバウンシングは電気信号に反映され、ブレードに印加される電源電圧に断続(チャタリング)が発生する。
コネクタが接続された後は、バックプレーン電源からブレード上の電源ラインにあるコンデンサへの急速な充電が開始される。その際には、大きな突入電流が発生することなる。これは、一般的には数マイクロ秒の期間のパルスとなる。この突入電流によってコネクタ端子にアーク放電が発生したり、バックプレーンの電源ラインの電圧が一時的に低下するブラウンアウトが発生したりする。また、この突入電流によって、バックプレーン電源が過負荷状態になって停止したり、ほかのブレードの異常動作を引き起こしたりする可能性もある。つまり、ホットスワップにおいては、電源の断続や突入電流への対処が必要になるという課題がある。
上述した課題への対処例が図1に示したホットスワップ回路である。この回路で実現する機能は次のようなものとなる。まず、電源の断続に対しては、コネクタ端子が完全に接続されるまでMOSFETおよびDC-DCコンバータをオフに保ち、完全に接続して状態が安定したらMOSFETをオンにすること。また、突入電流に対しては、電流検出抵抗によってそれを監視し、大きな突入電流を制限するようにMOSFETを制御することである。
ホットスワップ回路が備えなければならない機能は、これら2つだけではない。例えば、突入電流を制限した後に、ブレードのメイン回路に対する電源供給を開始する必要がある。これについては、突入電流によりホールドオフコンデンサが充電されるので、その電圧の変化を監視することによって電源供給のタイミングを判定できるだろう。つまり、VMOSFET端子電圧が−48Vになった際にDC-DCコンバータをオンにして、メイン回路に電源を供給するということだ。
このホールドオフコンデンサには、ほかのブレードの挿入に伴ってバックプレーン電源がブラウンアウトした場合に、ブレードの電源電圧を維持して正常動作を保つ役割がある。このコンデンサに必要な容量は、ブレードの消費電力と電圧低下を補償すべき期間に比例する。
また、電源のグラウンドラインに挿入されているショットキーダイオードは、ブラウンアウト時に電流がホールドオフコンデンサからバックプレーンに逆流するのを防止する役割を果たす。
ホールドオフコンデンサによって、ある程度の時間はブラウンアウトに対応することができる。ただし、電圧が低下している時間が長い場合は、システムで異常が発生している可能性があるので、安全を確保するために、ホットスワップ回路には、電源入力を遮断してブレードのメイン回路を保護することと、バックプレーンの電源電圧が正常に戻るのを監視することが求められる。また、過小電圧や過大電流といった電源の異常を検出して電源を遮断する機能も必要だろう。もちろん、このような異常が発生した後も、電源の正常復帰を監視して正常ならば電源供給を再開する必要がある。
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