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オンラインツールでアナログ設計を効率化(2/3 ページ)

» 2009年08月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

オンラインツールの先駆け

 アナログ回路の設計技術者は、上述したようなツールを用いて設計を行う。ここで注目すべきことは、パッケージソフトウエアタイプのツールよりも高い利便性が得られるオンラインツールの存在である。

■選択ガイドの普及

 半導体/電子部品メーカーは、10年ほど前から、自社のウェブサイトで各製品のデータシートをPDFファイルで公開し始めた。設計技術者は、部品の仕様を知るために、もはや分厚い仕様書をコピーする必要はなくなり、メーカーのウェブサイトから簡単に印刷することができるようになった。

 また、各メーカーは、製品のデータシートに加えて、顧客による部品選定を支援するための選択ガイドも提供していた。これも、最初はその多くが印刷物として配布されていた。しかし、1990年代に入ると、選択ガイドもソフトウエアベースのものへと進化し、パラメータによる検索が可能となった。


画面2 NationalSemiconductor社の選択ガイド 画面2 NationalSemiconductor社の選択ガイド 入力した条件を満たす部品が現時点でいくつ残っているかを示してくれる。そのため、存在しない部品を検索し続けて時間を無駄にすることがない。

 National Semiconductor社は、このころからソフトウエアベースの選択ガイドを提供していたベンダーの1つである。同社の選択ガイドはプログラミング言語のPerlによって実現されており、Windows上で利用できるパラメータ検索アプリケーションであった(画面2)。非侵入型(nonintrusive)のプログラムであり、Windowsのレジストリを改変したり、コンピュータ上にファイルなどを残したりすることなく動作した。

 また、同社は、米Palm社や米HP社製のPDA端末で稼働する「PalmGuide」も開発した。PalmGuideは、入力したすべてのパラメータを満たす部品がいくつ存在するかを表示するというものである。例えば、ノイズが1nV/√Hzで消費電流が1μAというように、あり得ないパラメータの組み合わせを入力すると、すぐにそのような部品は存在しないことがわかるようになっている。National Semiconductor社のフィールドアプリケーションエンジニアは、PDAにインストールしたPalmGuideを活用することにより、ノート型パソコンをいちいち起動することなく、顧客に対し、適切な部品を、素早くそして容易に提案することができた。

 ほかにも、米Texas Instruments(以下、TI)社やAnalog Devices社など多くの企業が、技術者の部品選定を支援するソフトウエアベースの選択ガイドを提供している。

 これらのメーカーが踏むべき次のステップは、もちろん、ウェブ上にオンラインツールとして選択ガイドを公開することであった。オンラインツールは、ソフトウエアをダウンロードしてパソコンにインストールする必要がない。また、ウェブとユーザーの間でデータのやり取りはほとんどないため、ダイヤルアップ接続によってウェブページにアクセスしていた時代でもプログラムは問題なく動作した。今日では、すべてのアナログ半導体メーカーが、選択ガイドのオンラインツールを提供している。その多くが、パッケージソフトウエアと同じ機能を持つ。一方、半導体メーカーにとっては、オンラインツールから、どのような選択ガイドや部品が顧客に好まれているのかという情報を得ることができる。

■設計ツールの登場

画面3 WEBENCHの実行画面 画面3 WEBENCHの実行画面 LED駆動回路の設計機能を実行しているところ。

 その次に登場したのは、オンラインの設計ツールである。この分野においても、WEBENCHを開発したNational Semiconductor社が先駆者であった。WEBENCHは、同社の電源製品ファミリ「SIMPLE SWITCHER」を用いたシステムを設計する技術者を支援するために、同社が1993年に開発したDOSベースのソフトウエアから自然に派生したものであった。

 同社は2000年に、英Flomerics社(2008年に米Mentor Graphics社が買収)と共同開発した「WebTHERM」を発表した。同ツールを用いれば、部品を搭載したプリント配線板の熱特性をシミュレーションすることができる。また、同じ2000年に、WEBENCHに「Build It」機能を追加した。この機能は、技術者が回路の検証を行う際に、設計要件に適合したカスタム電源キットや、組み立て済み/試験済みの回路基板を注文できる機能である。WEBENCHは、National Semiconductor社のサーバーにおいて、Intusoft社のSPICEツールをバックグラウンドで実行することにより、顧客のパソコンに過度の処理負荷がかからないようになっている。現在では、フィルタやアンプ回路の設計支援、温度/圧力センサー回路で用いる信号パス製品の選択、LED駆動回路の設計を目的とする機能が提供されている(画面3)。

追随するTI社とADI社

画面4 TI社のスイッチング電源設計ツール「SwitcherPro」 画面4 TI社のスイッチング電源設計ツール「SwitcherPro」 SwitcherProは、オンライン版とダウンロード版の2種類の形態で提供されている。

 ほかのアナログ半導体メーカーも、この分野を切り開いたNational Semiconductor社に続いた。例えば、TI社は、選択ガイドと、SPICEベースのツール「TINA-TI」をダウンロード提供した。TINA-TIは、回路シミュレータ「TINA」を提供するハンガリーDesignSoft社との提携により開発された。さらにTI社は、フィルタ設計ツール「FilterPro」もダウンロード提供している。FilterProは、フィルタを構成する受動部品やオペアンプの各種特性を用いて、フィルタの理論的な性能を示す数理解析プログラムである。

 TI社は、ほかにも、スイッチング電源の設計ツール「SwitcherPro」のオンライン版/ダウンロード版も提供している(画面4)。ダウンロード版であれば、インターネットに接続できない環境で作業している場合にも回路の設計を続行することができる。TI社で製品マーケティングエンジニアを務めるRich Nowakowski氏によると、ダウンロード版もオンライン版も処理速度はほぼ同等であるという。さらに、このSwitcherProを補完するツールとして、A-DコンバータやD-Aコンバータを使った回路の設計に利用できるソフトウエア「ADCPro」、「ClockPro」、「MDACBufferPro」などもダウンロード提供されている。

画面5 AnalogDevices社の「ADIsim」 画面5 AnalogDevices社の「ADIsim」 ADIsimは、回路が動作不能となる条件である場合には警告してくれる。

 これら以外にも、TI社は、電子システムの回路設計を支援するさまざまなオンラインツールを公開している。例えば、JavaScriptにより動作する4色帯カラーコードの計算機ツール(calculator)は、スルーホール抵抗を表示し、ユーザーがドロップダウンメニューによって色帯を指定すると、そのカラーコードの抵抗の値を表示する。TI社は、これ以外に何十種類ものオンラインツールを開発している。これらのツールは、ユーザーが指定した分圧回路を構成するための2種類の標準抵抗の値の算出から、アンプ回路を設計するための各種部品の値の算出といったより複雑なものに至るまで、あらゆる作業を支援する。ISM(Industrial/Scientific/Medical:産業/科学/医療用)帯域ループフィルタの定数を計算するためのダウンロード可能なツールや、降圧型スイッチングレギュレータの部品定数を選択するためのソフトウエアなどもある。

 優れたオンラインツールを提供するもう1つのアナログ半導体メーカーが、Analog Devices社である。同社は、National Instruments社と共同で、オペアンプ回路とスイッチング電源回路の設計を支援するオンライン設計プログラム「ADIsim」を開発した(画面5)。同ツールは、2段階の計算を実行することにより、まず部品の選定を支援し、続いて回路の性能を算出する。その概算結果に満足できた場合には、次の段階としてElectronics Workbench社のMultisim SPICEをベースにしたSPICEシミュレーションを行うことができる。

 Analog Devices社は、同社の部品に適用可能なMultisim SPICEの無償版もダウンロード提供している。ほかには、D-Aコンバータの設計ツール「ADIsimDAC」、PLL(位相同期回路)設計向けの「ADIsimPLL」も提供する。さらに、ゲイン、雑音指数(ノイズフィギュア)、消費電力などのRFパラメータの計算が可能な「ADIsimRF」もダウンロード提供している。

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