エレクトロニクスやコンピュータなどの世界では、「デジタル」と「アナログ」という言葉がしばしば出てきます。この言葉の意味についてまず、確認しておきましょう。
「デジタル」とは、粗く説明してしまうと、一定の桁数の数字の組み合わせで何かを表示することです。そして「アナログ」とは、同様に粗く説明すると、何かを数字ではなく、別の物差しで表示することです。
身近な例ですと、時計があります。デジタル時計は数字で「時間」を表現しています。デジタル時計では、時間を「何時何分何秒」と区切って表示していますね。これに対してアナログ時計は針の回転で「時間」を表示しています。針の位置を私たちが読み取ることで、「何時何分(何秒)だな」と理解します。
自動車の速度計にもアナログ・メーターとデジタル・メーターがあります。アナログ・メーターでは針が回転して「速度」を表し、デジタル・メーターでは数字で「速度」を示しています。
時間や速度、それから温度や長さ、圧力などの物理量は元来、連続的に変化する量(連続量)です。「アナログ」とは連続的に変化する事象を意味する言葉で、物理量はすべてアナログだといえます。ですから、物理量を数字の組み合わせで完全に正確に表現するには、無限の桁数の数列を必要とします(図1)。
デジタル信号とは、大きさと長さがとびとびの値しかとれない信号のことです。とびとびの値はあらかじめ決められています。これを数学では「離散値」と呼びます。決められた値の大きさと決められた値の長さだけで表現される信号が、デジタル信号なのです。
無限の桁数を必要とするということは、高速の計算処理が不可能であることを意味します。アナログ量を計算することも技術的には可能ですし、アナログ・コンピュータと呼ばれる計算システムも過去(20世紀の半ば〜後半)には存在しました。しかし現在では廃れています。現在ではコンピュータと言えば、デジタル・コンピュータのことを指します。
デジタルの世界では、あらかじめ「一定の精度で物理量を表現する」と決めておき、その精度に必要な桁数の数字を使って物理量を表示しています。言い換えると、一定の誤差をあらかじめ許容するということです。こうすると、さまざまな計算処理を実行しやすくなるという、大きな利点が生まれます。
例えばある物理量を示す信号を、256通りの値で表現すると決めます。信号の精度は最良でも256分の1です。その換わりに信号の表示に必要な数値は0〜255までの256個で済みます。最大でも「255」の数値しかないのであれば、計算処理は非常に高速に実行できます。四則演算であれば、私たちが手で計算することもそれほど難しくありませんね。
このようにして時間や速度、加速度、温度、圧力などの物理量を有限の桁数の数値、すなわち「デジタル値」や「デジタル量」、「論理値」などと呼ばれるものに変換することで、さまざまな計算処理が簡単に実行できるようになりました。
それでは、0〜255までの値(あたい)を具体的にどのように表現し、どのようにして伝達するのでしょうか。エレクトロニクスやコンピュータなどの世界では電気信号、より具体的には電圧信号で値を表現しています。
電圧信号が表現しやすい数値は「1」および「0」です。「1」と「0」の組み合わせで256通りの値を表現するには、8桁の数列が必要となります。「0」は「00000000」で、「255」は「11111111」と表現します。このような「1」と「0」の組み合わせだけで値を表現する手法を、数学の世界では「2進数」、論理学の世界では「2値論理」と呼びます。
2進数および2値論理の基本単位は「ビット(bit)」と呼ばれています。1ビット(1bit)とは1桁の数値であり、「1」と「0」の2通りの値しか存在しません。2ビットは2桁の数値であり、「00」、「01」、「10」、「11」の4通りの値が存在します。ビットの数が多くなればなるほど、表示可能な数値の数が増え、精度が向上します。先ほど説明しました「256通り」は、ビット数では「8ビット」に相当します。
8ビットの電圧信号は普通、8本の信号線で実現しています。1本の信号線が、信号電圧の高低によって1ビットの値を保持し、伝達していることになります。通常は信号線の電圧が高いときが「1」、低いときが「0」です。例えば、8本の信号線の電圧がすべて高ければ「11111111」となり、「255」を意味します。
ところでデジタルとアナログには、もう少し厳密な定義があります。それをこれから説明しましょう。
電気信号は必ず、2つの枠組みで定義されます。1つは「信号の大きさ」であり、もう1つは「信号の長さ」です。言い換えると、電気信号には必ず、大きさ(振れ幅)と長さ(時間幅)があります。この大きさと長さの値のとり方の違いにより、電気信号は「デジタル信号」と「アナログ信号」に分かれます(図2)。
デジタル信号とは、大きさと長さの両方がとびとびの(不連続な)値しかとれない信号のことです。とびとびの値はあらかじめ決められています。これを数学では「離散値」と呼びます。決められた値の大きさ(振幅離散)と決められた値の長さ(時間離散)だけで表現される信号が、デジタル信号なのです。
最も単純なデジタル信号は、振幅が一定で、長さが一定の信号です。振幅が一定とは、ゼロと一定の値(通常は「1」とみまします)しか取れないという意味です。これは先ほどご説明した、2進数と同じです。長さが一定とは、一定時間だけ、同じ値の信号を出力しているという意味です。
例えば電圧が3.3Vあるいは0Vで、長さが1マイクロ秒(100万分の1秒)のデジタル信号が存在すると考えましょう。1マイクロ秒ごとに、信号の電圧は3.3Vあるいは0Vに変化していきます。電圧が3.3Vのときが「1」、電圧が0Vのときが「0」を示します。なお、厳密には信号変化に必要な時間が存在するのですが、理想的なデジタル信号では信号変化に必要な時間はゼロとみなしています。
これに対してアナログ信号とは、大きさと長さが連続的な値を取る信号のことです。大きさはとびとびの値をとらずに連続的に変化します。ある値を維持する時間は決まっていません。なお、時間や速度、加速度、温度、圧力などのすべての物理量はアナログ信号だと言えます。
アナログ信号とデジタル信号の中間に相当する信号も存在します。1つは、大きさが不連続なとびとびの値をとり、時間的には連続している信号です。もう1つは、大きさは連続的な値をとり、時間的には不連続な信号です。前者(振幅離散、時間連続)には多値化信号や量子化信号、PWM(Pulse Width Modulation)信号、TDC(Time to Data Converter)信号などがあります。後者(振幅連続、時間離散)には標本化信号やサンプリング信号、PAM(Pulse Amplitude Modulation)信号などがあります(図2)。
それでは、これらの信号はデジタル信号なのでしょうか、アナログ信号なのでしょうか。 現実には、どちらの範ちゅうにも入れられるのです。どちらに入るのかは、定義の厳密さに依存します。アナログ信号を厳密に(狭く)定義すると、上記の信号はすべて、デジタル信号(広義のデジタル信号)とみなせます。一方、デジタル信号を厳密に(狭く)定義すると、上記の信号はすべて、アナログ信号(広義のアナログ信号)とみなせます。(次回に続く)
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2012年12月31日
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