電子機器製品とは切っても切り離せないノイズ・EMCについて、電磁気の超基礎からEMC現場で実際に行われている対策まで、全4回の連載で分かりやすく解説します。
私たちを取り巻く環境には非常に多くの電気・電子機器があふれています。いや、逆にいえば、それらなしではもはや社会が機能しなくなってきているというべきでしょうか。それらは、ポータブル音楽プレーヤや携帯電話などのモバイル系機器から、自動車やインフラ系を支える基地局や宇宙関連までほとんどすべての分野に広がっています。
これから、ノイズとEMCについてのお話をしていくわけですが、これらの電気・電子機器とノイズ・EMCは切っても切れない関係にあり、近年、ますます重要視されてきています。
前述のとおり、いまではほとんどすべての電気・電子機器は何らかの形でノイズ・EMCにかかわるのですが、もともとは、無線通信時代の幕開けにその端を発しています。無線通信時代の幕開け、それは19世紀までさかのぼります。
1895年、イタリアのグリエルモ・マルコーニ(Guglielmo Marconi)という人が、世界で初めて実験に成功し、無線通信時代が幕開けしました。当時の無線通信は、モールス信号というもので、トンツーというパルス状の信号を組み合わせて行うものでした。このトンツーは単純に直流回路のスイッチの開閉により発生させています。
ある意味、現在のデジタル信号と共通していますね。ところで、いま、このような通信をしたらどうなるでしょうか? テレビの画面が乱れたり、ラジオに雑音が入ってくるかもしれません。そのモールス信号を使った無線通信は、その後の無線技術の発達に伴い、現代ではごく一部を除いて使われていません。いまでは映像情報まで送れるんですからね、随分と進歩したものです。
このように、無線通信技術の発達に伴い、さまざまな周波数や技術が使われ始めましたが、そうなると、周波数や技術(方式)の違いによる干渉の問題が無視できなくなりました。つまり、ある方式の無線はほかの方式にとっては害でしかない、ということです。
例えばAMラジオにとってはモールス信号は邪魔物でしかありません。そして、この無線通信は電波(電磁波)を使用しており、この電波は国境を越えて遠くまで到達するため、国際的にこれらを規制する必要性が出てきました。そのために国際的組織である国際電気標準会議(IEC)の中に国際無線障害特別委員会(CISPR)という組織が1934年に設立され、現在でも国際標準規格を策定しています。
現代では、無線通信なくして社会は成り立たなくなってきています。携帯電話は比較的最近に普及した技術ですが、それでもそれなくしては生活できないというくらいにいまは普及しています。
公共の通信、例えばテレビの放送などもそうですし、警察や消防無線、またはもっと国家的な防衛無線など、さまざまなところで無線通信はなくてはならない存在です。まさしく、電波は公共の財産といえるでしょう。
しかし、もしこれらすべてがまったく同じ方式を使っていたとしたらどうなるでしょうか? 当然、混信が激しく、とても使い物にならないでしょう。そのため、各種通信においてはそれぞれの方式や規格を定めています。このことが意味することは、ある方式にとってはそれ以外の方式はまったく意味がなく、むしろ、邪魔な存在だということです。
つまり、自分の通信にとってほかの通信は邪魔でしかない、この邪魔がノイズという考えです。実際、ある通信がほかの方式の通信に悪影響を与えるということは現実に発生します。もし、それが国防無線に障害を与えるとなったとしたら、それは国家存亡にかかわる重大な問題です。
そのため、個人で使う携帯電話でも国防無線でも電波は国家財産として扱われ、先に述べたCISPRのように国際的にも厳重に管理されています。このように、ノイズにとって、無線通信の発達は深い関係があります。これがEMCという概念につながって今日に至っています。
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