ノイズについては、これまで読んでいただけてもうお気付きのとおり、無線通信でいえば、その無線にとって不必要なものの総称というのがノイズということができます。電気信号でいえば、オシロスコープなどで見る信号や電力の波形に不必要なものが混じっていればそれがノイズです。逆に、ノイズのない波形というのは、設計されたとおりのきれいな形をしています。音の場合だと分かりやすいですね。
例えば電話で通話中に「サー」とか「ザー」という音が聞こえればそれがノイズですし、音楽鑑賞においてはそれ以外の騒音のことがノイズといえます。特に音楽鑑賞での騒音はまったく不要なものですよね。
さて、EMCですが、EMCはElectromagnetic Compatibilityのことで、電磁気的両立性とか電磁環境両立性などと訳されています。しかし、最近は電磁環境工学という意味合いで使われることも増えており、こちらの方がより実態に即していると思われます。
このEMCのElectromagneticは文字通り電磁気のことでCompatibilityは両立性という意味ですが、電気・電子機器におけるノイズというのは、この電磁気的現象として扱われており、両立性というのは、この電磁気的現象であるノイズを外に出さない、かつノイズを受けても影響を受けないという両面を指しています。
実際は、まったく外に出さないということは不可能なので、ある程度のレベルで許容するようにしています。このレベルであればほかの機器に対して悪影響を及ぼさないだろうということです。一方、ある程度のレベルのノイズが入ってきても、機器自身は誤動作せず、設計されたとおりに動作しなければなりません。
このような電磁気的な現象が及ぶ範囲を電磁環境ととらえ、その中においてはほかに迷惑を掛けず自分自身も耐性を持つことが現代社会では不可欠になっています。
ここまでお読みいただければお分かりだと思いますが、上記のようにノイズとEMCというのは同義ではありません。ノイズはその現象そのものを指していますが、EMCはそのノイズを前提とした環境適合性を指しており、両者は密接に関連しますが厳密には違います。でも、ちまたでは「ノイズ対策」と「EMC対策」は同じ意味で使われており、実質的には混同して使われているのが実情です。
これまで説明してきたとおり、EMCは電気・電子機器がそれぞれ正常に動作する環境のことを指しており、その正常に動作する環境(ほかに悪影響を与えない、自分自身も影響を受けない)が確保されていなければならないとしています。
これは、世界中のどこでも確保されていなければならず、国際的にその環境許容値が定められています。これが規制化された背景です。この許容値という考え方では、ノイズの存在そのものは認めています。要するにレベルの問題になっています。ノイズ自体をゼロにしようと努力するのではなく、ある一定の許容値を設定して、電気・電子機器メーカーがその基準内であれば製造・販売できるようにしています。
なお、CISPRは国際規格ですが、各地域や国は、そのCISPRの規格を参照して各地域・国のローカル規格を制定しています。でも、例えば製品を輸出しようとした場合は、輸出先の規制に適合させることが必要になります。
これまでノイズについて触れてきましたが、今回扱っているのはあくまでも電磁気的現象でのノイズです。このノイズは自然現象によるものと人工的ノイズの2つに分けられます。
自然現象で最も身近な例の1つとしては雷があります。これが発生するとラジオには雑音(バリバリっというノイズ)が入ることはよく経験するところです。もちろん、CISPRという規制は自然現象による発生を抑えることまで考えてません。雷のレベルを抑え込むなんてことはできませんからね。
ただ、雷があっても、その機器が壊れないという面での規制はあります。雷の発生するたびにせっかく買った機器が壊れたんじゃあ、たまりませんよね。もう一方の人工的ノイズは、これは機器の設計などでそのノイズの発生量や放射量は制御できますので(ある程度まで、ですが)、そちらは規制の対象にしています。
前者はEMS(Electromagnetic Susceptibility)といい、ノイズを受けても問題ない耐性のことを指します。そして後者はEMI(Electromagnetic Interference)といい、EMCはこの両方を同時に満たすことを指すわけですが、当然、EMIについては人工的ノイズだけしか対象にしていません。
人工的ノイズが対象になる、これはすなわち、ほとんどの電気・電子機器は対象になるということを意味しますが、いうまでもなく、電気・電子機器というのは電気を使用します。その電気を使うと(電気が流れると)磁気が発生します。電気が流れれば必ず磁気も存在するので、EMCを考えていく必要が出てきます。このように、EMCは自然現象によるノイズと人工的ノイズの両方を扱っています。
今回は、EMCという電磁環境工学が発展してきた背景に無線通信技術の発達があったこと、ノイズというのは通信や信号において不必要な成分のことで、EMCというのは、そのノイズが存在するという前提での、環境工学、両立性の概念であることを説明しました。また、EMCでは自然現象も人工的現象も両方扱うことをお話ししました。
次回は、電気と磁気の切っても切れない関係や、デジタル機器とノイズ、高調波について、そして自分自身から出るノイズで自分が苦しむ、などについてお話しします。
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