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アイドルストップで頻発する電圧降下対策、リニアが低消費電力の電源ICを提案車載半導体

エンジンの再始動を何度も行うアイドルストップシステム搭載車では、従来は寒冷環境などでしか起こらなかったクランキング時の電圧降下が頻発する可能性がある。この問題への対策としては、車載システム側で降下した電圧を昇圧する回路を組み込むのが一般的だ。

» 2012年12月10日 07時00分 公開
[朴尚洙,MONOist]
リニアテクノロジーが新たに導入した昇圧回路の仕組み

 自動車のエンジンを始動(クランキング)する際に、先に点灯させていた室内灯が暗くなったり、カーオーディオの音声が聞こえなくなったりすることがある。これは、鉛バッテリーの出力電圧のほとんどがスタータモーターに回るために、他の車載システムに出力する電圧が低下してしまうためだ。

 このクランキング時の電圧降下は常に起こる現象ではない。鉛バッテリーの性能が低下する寒冷環境や、老朽化して性能が劣化している鉛バッテリーを使用している場合に発生する。寒冷環境対応の鉛バッテリーの搭載や、定期的な鉛バッテリーの交換によって予防することが可能なのだ。

 しかし、マツダが2009年6月に発売した「アクセラ」以降、電気自動車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車以外の内燃機関だけを搭載する “エコカー”には、アイドルストップシステムが搭載されるようになっている。アイドルストップシステムは、赤信号の交差点などで停車する際に一旦エンジンを停止して、燃料消費を抑えられるシステムである。一旦エンジンを停止する以上、青信号になって車両を発進させる際には、エンジンを再始動することになる。

 エンジンを再始動するまでの間、カーオーディオや制御系の各種車載システムによって鉛バッテリーの電力は消費され続ける。そして、鉛バッテリーの電力がある程度消費された時点でエンジンを再始動しようとすると、寒冷環境でのエンジン始動と同様に電圧降下が発生してしまうのである(関連記事)。

個別部品で構成する回路を電源ICに集積

 鉛バッテリーの容量が限られている以上、クランキング時の電圧降下による不具合を回避するには、車載システムの側で低下した電圧を必要な値まで昇圧させられる回路を組み込むのが一般的だ。

 アナログICベンダーのLinear Technology(リニアテクノロジー)は、アイドルストップシステムの採用が拡大するにつれて注目されるようになった、クランキング時の電圧降下対策に適した電源ICの製品展開を強化している。

リニアテクノロジーの「LTC3859」 リニアテクノロジーの「LTC3859」

 その代表となるのが、カーデジタルラジオやカーナビゲーションシステム、カーエンターテインメントシステムといった車載情報機器向けのスイッチングレギュレータIC「LTC3859」である。2010年3月に市場投入された製品だ。

 LTC3859は、スイッチング素子が外付けタイプのスイッチングレギュレータICであり、昇圧の電圧出力を1つ、降圧の電圧出力を2つ備えている。入力電圧範囲は4.5(起動後は2.5)〜38V、出力電圧は昇圧が1.2〜60V、降圧が0.8〜24Vとなっている。供給可能な電力は約50Wである。

 車載システムの中でも消費電力が大きい車載情報機器は、クランキング時に降下する入力電圧を昇圧するため回路が必須である。もちろん、過渡電圧に対応するための降圧回路も必要だ。従来、これらの昇圧/降圧回路は、個別部品を使って構成するのが基本だったが、LTC3859はこれらの個別部品の機能を1個のICに集積したことで高い評価を得た。実際に、日本の大手車載情報機器メーカーが量産製品に採用している。

小さい暗電流と新方式の昇圧回路

リニアテクノロジーのRandy Flatness氏 リニアテクノロジーのRandy Flatness氏

 LTC3859は、ICとして回路を集積している以外に、低消費電力であることも高い評価を受けた要因の1つになっている。この低消費電力という特徴は、2つの理由によって得られている。1つは、暗電流(無負荷時の消費電流)が50μAと小さいことだ。リニアテクノロジーでパワー製品担当ディレクターを務めるRandy Flatness氏は、「競合他社品よりも暗電流を10分の1程度まで低減できている」と語る。

 もう1つは、LTC3859から新たに導入した昇圧回路の仕組みである。設定した電圧よりも入力電圧が低いときだけ昇圧回路を動作させ、設定電圧よりも入力電圧が高い場合には昇圧回路を動作せずにそのままの電圧で出力するというものだ。これにより、「従来の昇圧回路よりも、スイッチング動作が必要になる機会が大幅に減るので消費電力も減らせる」(Flatness氏)という。

「LTC3859」から新たに導入した昇圧回路の仕組み 「LTC3859」から新たに導入した昇圧回路の仕組み。エンジン始動時など、入力電圧が設定電圧を下回る場合にだけ、昇圧回路を動作させる。(クリックで拡大) 出典:リニアテクノロジー

 同社は、この新たな昇圧回路を採用した新製品を続々と追加している。2010年9月に投入した、LTC3859と同じ昇圧回路を2系統搭載する「LTC3788」は、供給可能な電力が約100Wと大きいことから、カーオーディオ用の高出力アンプなどに最適である。昇圧回路を1系統だけ搭載する「LTC3786」は、通常の車載マイコンやメモリから構成される、より一般的なECU(電子制御ユニット)向けの製品となっている。

 クランキング時の電圧降下対策に注目が集まるにつれて、これらの新たな昇圧回路を採用する電源ICの需要も急激に高まっている。Flatness氏は、「欧州の自動車メーカー向けの車載システムを中心に、需要は前年比2倍になっている」と説明する。

 リニアテクノロジーは、この新たな昇圧回路を用いた電源ICの製品展開をさらに拡大する方針だ。まず、暗電流を30μA程度まで低減した製品を投入する予定である。この他、スイッチング素子を内蔵するとともに、外付けのコイルも不要なチャージポンプ方式を採用する昇降圧タイプの製品の投入も検討している。ただし、このチャージポンプ方式の製品は、供給可能電流が250mAと小さいため、ECUの車載マイコンのスリープ動作に必要な電圧を確保する用途が中心になるとみられる。

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