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「プリンテッドエレクトロニクス」の可能性(2/3 ページ)

» 2007年12月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

多種多様の活用例

 ここでは、現在、開発中の技術、すでに市場に出ている製品などをいくつか取り上げて紹介する。それにより、プリンテッドエレクトロニクスの現状を示すことにする。

・日用品や玩具

 導電性インクに関する豊富な特許技術を有する米T-Ink社は、プリンテッドエレクトロニクス分野におけるパイオニアである。同社は大規模な設計や試験サイクルを必要としない民生機器、パッケージ、広告分野をターゲットとしている。同社の技術は、スイッチ、ワイヤー、ボタン、スピーカ、照明、電池の分野で、インク技術を用いたタッチ操作型アプリケーションを実現する。

 有名な製品としては、米Hallmark Cards社向けの対話型テーブルクロス、米McDonald社向けのテーブルマット、ラジオ内蔵枕、対話型ゲームなどがある。また、同社は子供に単語のつづりや計算を教えるための教育用玩具のシリーズも提供している。

・有機ELディスプレイ

 従来の液晶ディスプレイとは異なり、有機EL(organic electro luminescence)ディスプレイはバックライトを要さず、応答が高速で消費電力が少ない。この有機ELディスプレイにもプリンテッドエレクトロニクスが利用されている。

 有機ELディスプレイでは、複数の層を形成する印刷プロセスにより、平らな媒体に行列の形で有機化合物を沈着する。有機化合物はフレキシブルな素材や布地などを含むさまざまな基板にプリントすることができるので、巻き上げ式ディスプレイや着用可能なディスプレイを作成することが可能である。なお、有機ELディスプレイの欠点は、有機材料の一部の色の寿命が短いことだ。

図2 電子ぺーパー 図2 電子ぺーパー  携帯型電子リーダー製品の例。トランジスタとコンダクタによるアクティブマトリックス方式のバックプレーンをプリンテッドエレクトロニクスで実現している。

・電子ペーパー

 電子ペーパーも、プリンテッドエレクトロニクスによって実現されるディスプレイ製品の1つである(図2)。電子ペーパーの画像は、カラーマイクロ粒子の移動によって実現される。この粒子は、プリント技術を用いて形成したトランジスタとコンダクタのアクティブマトリックス方式バックプレーンに帯電したものだ。電子ペーパーは電気泳動ディスプレイとも呼ばれ、通常の紙のように光を反射し、双安定性を持つ。電力を消費することなく、文字や画像を保存することができる。

 英Plastic Logic社は最近、ドイツのドレスデンに、米E Ink社製の電気泳動フィルムをベースとしたフレキシブルディスプレイの製造工場を開設した。この工場では、柔軟性を持つアクティブマトリックス方式のディスプレイモジュールを、「どこにでも携帯でき、どこででも読める」電子リーダー製品向けに製造する予定である。

図3 医薬品配布システム 図3 医薬品配布システム  薬品の使用記録を管理するとともに、患者に服用時間を知らせる機能をプログラミングすることができる。

・医療分野での応用

 現在、医療分野では患者のほぼ半数が誤った用法で薬品を服用しているという問題が起きている。この分野には、プリンテッドエレクトロニクスを適用できるところが多数存在する。すでに、薬品配布における問題点の改善を目的としたセンサーや、電池付きのインテリジェントなパッケージなどがプリンテッドエレクトロニクスを利用して製造されている。

 スウェーデンCypak社は、IPP(intelligent pharmaceutical packaging)として知られるカード型のブリスタパック(薬品の形に合わせて成形されたプラスチックパッケージ)向け薬品配布システムを製品化した(図3)。同システムはブリスタパックから取り出された薬の数とその時間を記録し、後にリーダーによってその値を読み出せるようにしたものだ。このシステムでは、患者に薬を服用する時間を知らせるように、パッケージにプログラムを含めることができる。また、肉体的/精神的状態に関する簡単な質問事項に対し、厚紙上にプリントされた回答キーを押すことで患者に回答してもらえるようになっている。

・ラボチップ

 米Bioident Technologies社は、生命科学向け光エレクトロニクステスト装置のベンダーである。同社は、プリンテッドエレクトロニクスを用いた半導体をベースとするマルチウェルチップのプロトタイプ「PhotonicLab Platform」を発表した。これはラボチップ(lab on chip)と呼ばれるデバイスの一種であり、実験機能を実行するためのテスト用薬品を格納可能な1インチ×3インチ(約2.5cm×7.6cm)のナノタイタープレート(nanotiter plate)を備える。このプレートは、Bioident社がプリント半導体技術をベースとして開発した、各ウェルの下に1つの画素を持つ光検出器アレイを搭載している。このアレイは光を電気信号に変換し、複数の薬品を同時かつリアルタイムに解析することができる。

 同システムでは、通常のマイクロプレートやバイオチップリーダーでは必要となる高精度な変換段が不要である。有機半導体をベースとしたBioident社の技術を利用することで、光の放射/検出機能を、ガラスを含むどのような表面にも直接プリントし、オンチップでの解析/診断が行えるようになる。

・スピーカ

 スピーカは、機械的な動きを伴う。そのため、プリンテッドエレクトロニクスの応用分野としてはやや考えにくいものの1つであった。しかし、ミッドスウェーデン大学のPaper Fourプロジェクトに携わる研究者らは、ユーザーが触れると、それに反応して、録音された音声を発する対話型ペーパー広告掲示板を開発した。その機能を紹介するビデオをhttp://mkv.itm.miun.se/projekt/paperfourで見ることができる。

 同プロジェクトの研究者らは、導電性インクを用いた電磁石をプリントし、紙をポスターボード上の穴を覆うように引き伸ばすことでプリントスピーカを構成した。この電磁石に電流が流れることで振動が発生し、音を鳴らすことができる。大量な需要があれば、この広告掲示板は安価な使い捨て型とすることができる。

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