前回(第7回)では、ダイオードが存在する回路を解説しました。今回(第8回)からは、トランジスタについてご説明します。トランジスタはアナログ回路の基本素子であるとともに、デジタル回路の基本素子でもあります。アナログICとデジタルICの両方にとって非常に大切な素子です。
さて、トランジスタとは何でしょうか。ここでは最も素早く、しかも単純にトランジスタを理解するため、その働きをご説明します。アナログ回路とデジタル回路では、トランジスタの働きが違うからです。
1)アナログ回路におけるトランジスタは、「信号を増幅する素子」のことだと理解してください
2)デジタル回路におけるトランジスタは、「スイッチ」のことだと理解してください
これだけです。説明としては粗すぎるかもしれません。しかし実際に製造されているICやボードなどの大半で、トランジスタの働きはこの二つに絞られます。本稿では例外的な回路まで理解していただくことを目的とはしていないので、たぶん、これで十分でしょう。とは言ってもこれだけではあまりに説明が少なすぎるので、もう少し補足します。
まず、トランジスタの入力信号と出力信号の関係を考えましょう。トランジスタは3本の電極を備える素子(3端子素子)です。1本は入力端子、もう1本は接地端子、最後の1本は出力端子となります。
アナログ回路におけるトランジスタは、「信号を増幅する素子」だと説明しました。トランジスタによる信号増幅とは、トランジスタに入力する信号の小さな変化(振幅)を、信号の大きな変化に変換して出力することを指します。
トランジスタの入出力では、入力の信号波形をそのままなぞるように、出力の信号波形が変化します。大きく違うのは信号振幅で、出力信号の振幅は入力信号の数倍から数十倍〜数百倍にも大きくなっています。
トランジスタの増幅作用はひょっとすると、エネルギー保存則を壊しているようにみえるかもしれません。トランジスタでは、入力信号よりもはるかに大きなエネルギーが出力されているからです。ここに増幅作用のからくりがあります。
実は、トランジスタは電源からエネルギー(電力)をもらって入力信号を増幅しているのです。このエネルギー供給を「バイアス」と呼んでいます。5Vバイアスとか、12Vバイアスとかの表記は、電源電圧がそれぞれ5V、12Vであることを意味します。
ところで、デジタル回路におけるトランジスタは、「スイッチ」だと説明しました。それはトランジスタの「オン状態」と「オフ状態」の二つの状態をデジタル回路では利用しているからです。
アナログ回路は「オン状態」のトランジスタが前提です。オン状態における入力信号の変化をトランジスタで増幅しています。これに対してデジタル回路では、トランジスタをオン状態(出力電流が流れる状態)にするか、オフ状態(出力電流が流れない状態)にするかで、論理値を決めています。
トランジスタの構造には大別すると、MOSトランジスタとバイポーラトランジスタの二つがあります。歴史的にはバイポーラトランジスタが早期に普及し、アナログ回路とデジタル回路の両方に使われました。シリコントランジスタの開発初期にはMOSトランジスタの特性が非常に悪く、実用的でなかったからです。その後はMOSトランジスタの改良が大きく進展し、現在ではアナログ回路とデジタル回路の両方とも、MOSトランジスタが普及しています。特にデジタル回路では、バイポーラトランジスタを使うIC製品はごくごくまれにしか存在していません。
MOSトランジスタの三つの端子は、ゲート、ドレイン、ソースと呼ばれています。バイポーラトランジスタの三つの端子は、ベース、コレクタ、エミッタです。トランジスタの働きで区別するとたいていの回路では、ゲートとベースが入力端子、ドレインとコレクタが出力端子、ソースとエミッタが接地端子になります。厳密には両者は異なるのですが、おおまかには同じものだと考えておいて差し支えありません。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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