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ウォーターハンマーSignal Integrity

» 2010年12月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 2年間で2回目の出来事だった。皆が寝静まった夜、1頭の水牛が村の広場にのっしのっしと入り込んできて、共同井戸にぴったりとはまり込んでしまった。その村に住む技術者のErnie氏は、村人たちに、「この井戸を使うのはやめて、村の裏山にあるわき水から水道をひくべきだ」と提案した。

 Ernie氏が計画したシステムは、モーター式タイマー、スナップアクション式電動バルブ、流量調整器を備えた本格的なものだった。彼の説明によれば、「このシステムは、昼間に、きれいな飲料用水を供給し続けられるだけの能力を備えている」とのことだった。余った水は、水牛の粗暴な動きによって荒れてしまった花壇を回復させることにも使えるはずだった。そして、夜間には、村の広場への送水を停止し、わき水近辺の動物たちが利用できるようにするために、バルブを閉じることになっていた。

 村人たちはErnie氏の計画に賛同し、基金を設けた。そして、システムの構築に必要なものを調達してもらうために、Ernie氏を最寄りの町へと送り出した。このような立場を得て、Ernie氏は幸せを感じていた。ブータンの静かな山並みで、Ernie氏は自分の技術的な能力によって、社会の発展という目標に貢献できることを喜んだ。Ernie氏は、自分が必要とされていると感じていたのだ。

 Ernie氏は、町から帰ってから何週間も働いて、わき水の場所から、そのはるか下にある村まで、直径が4インチ(約10cm)の送水パイプを敷設した。その長さは、2500フィート(約760m)にも及んだ。パイプの受水端にはバルブとコントローラを設置し、すべての準備が整った。そして電動バルブがカチッと音を立てて開けられ、その瞬間に、水がパイプから勢いよく噴き出した。彼が計画したとおり、1分間に30ガロン(約114リットル)の水が流れてきた。

 村人たちは歓声を上げ、帽子を空に向けて投げ上げた。古い井戸は砂で埋められ、夜には宴会が開かれた。その夜遅く、Ernie氏は満足感に浸りながら座っていた。そのとき、電動バルブがカチッと閉まる音が聞こえた。その瞬間、パイプが破裂し、4インチのパイプに流れるすべての水、つまりは止めようのない大量の水が、制御されることなく村を水浸しにしたのだ。

 Ernie氏の失敗は、ウォーターハンマー(水撃作用)について考えが巡らなかったことである。本来は、村に向かって絶え間なく流れてくる巨大な水柱の運動量について考慮しなければならなかったのだ。直径が4インチで長さが2500フィートのパイプは、1万3000ポンド(約5900kg)もの水を支えている。このような大量の水の動きは、スナップアクション式バルブを閉じたからといって直ちに止まるものではない。

 Ernie氏が構築したようなシステムでは、水の遮断はゆっくりと行わなければならない。圧力波がそのシステムの両端間を往復する周回時間よりも、十分に長い時間をかけて遮断する必要があるのだ。圧力波の伝搬速度をおよそ5000フィート/秒(1524m/s)とすると、Ernie氏が設計した水道管内の水を伝搬する圧力波の往復での遅れは約1sになる。例えば、10sかけてバルブをゆっくりと閉めれば、その水全体の運動を止めるために必要な圧力のピーク量をほぼ1/10に低減できる。

 電気回路もウォーターハンマーと同様の原理に従う。長い電線にはインダクタンスがあり、そこを流れる電流は、上述した運動量の大きな水と非常によく似た性質を持つ。長い電線の一端で電流の流れを急に遮断すると、幅は短いが強度の大きいスパイク状の誘導電圧が生じる。そのスパイクが大きければ、Ernie氏のシステムが次のステップでの成功の可能性を吹き飛ばしたのと同様に、読者の回路も簡単に破壊してしまうだろう。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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