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今なお現役、1000種以上が存在するIntel空前の長寿MCU「8051」マイクロプロセッサ懐古録(2)(4/5 ページ)

» 2025年03月21日 11時00分 公開
[大原雄介EDN Japan]

猛烈に売れた8051

 クロックの事は措いて話を戻すと、こうした機能拡張や命令拡張の結果、8051の回路規模は8048と比べてかなり大きくなった。図7がそのブロック図で、図4と比較するとかなり細かくいろいろな箇所が改変されているのが分かるが、実際ダイサイズも同一プロセスでは8051はかなり大きくなった。図8では8051が8048と比べて1.5倍弱のダイサイズになっているが、性能はOverallで10倍に向上したとしている。最初の8051はHMOSプロセスで230mm2のダイサイズに6万個のトランジスタを詰め込んだものとなった。理由の一つは、当初からEPROMやMask ROMなどを入れる場所を大きく空けてある事が挙げられよう。8048に比べると全体的にゆとりがあちこちに見られるが、これは8048シリーズが拡張しようとしても、最適化し過ぎてしまってゆとりが全然無く、えらい苦労した(使っていない命令を廃止して別の命令に充てる、なんてのもその一例だ)事を反面教師にしている感じがする。加えて言えば、8048の時は未知のマーケットへの初参入だった事もあってとにかくコスト削減が最優先とされたが、8051ではもうある程度マーケットを把握しており、コスト削減が必ずしも最優先ではない場合もある、という事が社内で共有されたという事情もあるだろう。

8051 Single-Chip Microcomputer Architectural Specification and Functional Description 図7:出典は図6と同じく。PC(Program Counter)が相変わらずPCLとPCHに分かれているが、8bit CPUで16bitのPCを扱う以上これは避けられない。Registerは4 Bankになっている[クリックで拡大]
8051 Single-Chip Microcomputer Architectural Specification and Functional Description 図8:出典は図6と同じく。ただ資料を見ても、Die Sizeの方のX(基準)にあたるものが何かが書かれていない。ひょっとして4040あたりだろうか?[クリックで拡大]

 さて8051シリーズ、1980年の発表時には

  • 8031:No ROM/128Byte RAM
  • 8051:4KB Mask ROM/128Byte RAM
  • 8751:4KB EPROM/128Byte RAM

の3種類しか製品が無かった。これが1994年になると図9(次ページ)まで品種が増えている。動作周波数は12/16/20/24MHz、ROMは無しと4KB/8KB/18KB/32KBのEPROM/Mask ROM、RAMは128B/256B、I/Opinは24/32/40/48/56、あとは周辺回路の有無や数の差、割り込みピンの数、Power Down/Idle Modeの有無、etc...で56製品が並んでいる。それだけ多様多種な構成が顧客に望まれたというわけだ。

 この8051とその仕様違いのシリーズは猛烈に売れた。提供を開始した1980年以降、毎年数十億個の8051シリーズが販売された。もちろん1社だけではカバーしきれないので、セカンドソースも大量に出荷されている。筆者が知っているだけでAMD、富士通、MHS(Matra Harris Semiconductor)、沖電気、Philips、Signeticsの各社が8051の互換品をセカンドソース契約に基づいて生産していた。加えてADI(Analog Devices)、Atmel、Cypress Semiconductor(旧Temic)、Silicon Labs、SST、Winbond、Zilogなどが機能強化版の8051シリーズのコアを提供している。もっともこの辺りから、Intelからコアのライセンスを受けるのではなく、命令セットをベースにクリーンルーム方式で8051互換コアを開発したベンダーも数多く出て来ており、爆発的に製品の数は増えた。2006年にWharton氏がカリフォルニアで開催されたESC(Embedded System Conference)に参加した時、Keil Software(2005年10月にArmが買収)のカタログを手に取ったところ、そこには1000種類以上の8051ベースの製品を提供する60以上の企業が掲載されていたという。

Intel「P8051」/Konstantin Lanzet (with permission), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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