NECはこのあたりでCISCの開発を断念。代わりにRISCベースでの組み込み向けプロセッサの開発を開始する。1991年に発表された「V810」がその最初のファミリーである。構造的には5段のPipelineと32本の汎用レジスタを持つ32bit RISCで、従来のVシリーズとは命令互換性は一切ない。性能は25MHzで18MIPSという程度で、V60〜V80よりは高速であったものの、例えば同時期に登場したMIPSのR4000が50MHz駆動で76 DMIPSという数字だった事を考えると、ワークステーションなどには物足りない程度だった。ただ組み込み向けには悪くない性能であり、また性能消費電力比のバランスも良かった。それもあって、PC-FX(NECが発売した家庭用ゲーム機)や任天堂のバーチャルボーイといったゲーム機、さらにさまざまな組み込み機器にも採用された。
この直接の後継が1994年に発表されたV850ファミリーで、命令セットの改良(V810は32bit固定命令だったが、これを見直して高効率化したほか、不要な命令を省くなど)やハードワイヤード化による高効率化などを図った、組み込み向けに最適化されたコアである。このV850ファミリーは性能が上がった事でゲーム機の他にDVDなどの光学ドライブの制御用、家電や産業機器、車載のモータ制御などに広く利用された。またこのV850コアはその後、V850E(1996年)/V850E1(1999年)/V850ES(2002年)/V850E2(2004年)/V850E1F(2005年)/V850E2v2(2007年?)/V850E2v3(2009年)/V850E2v4(2010年)/V850E2v3S(2011年)/V850E3v5(2014年)と改良を加えながら進化して行く。面白いのはV850E2シリーズで、本来は車載向けに開発されたコアだが、NECなどの携帯電話(N504iSシリーズなど)にも採用された。
これと別方向で進化したのがV830ファミリーである。カーナビゲーションシステム(カーナビ)あるいはMedia Player向けということで4KBのInst/Data Cacheの他4KBのInst/Data RAMを搭載、命令フォーマットも見直され(なのでV810/850との命令互換性が失われた)、ハードウェア乗算ユニットを搭載してMAC演算も可能にした。またEDO-DRAMのI/F(のちにSDRAM)のI/Fを搭載するなどしたが、当初想定されていたPDA用途ではほとんど採用例がなく、カーナビで幾つかの採用事例があるにとどまった。
ここまでVシリーズを説明してきたが、問題は採用事例が日本国内に集中した事だ。これはその前のμCOMシリーズにも共通の話ではあるが、全世界展開を頑張ったものの、競合となるCPUがあまりに多く、結局NECあるいはその関連企業での採用事例が非常に多かったあたりがVシリーズの限界だった、と言えなくもない。
この後同じVを冠しつつ、実際にはMIPSコアを利用したVRシリーズの製品がワークステーションやPDA、ゲーム機などに採用されることになり、Vシリーズは組み込み用途で辛うじて命運をつないだ格好だ。そして2010年にルネサス テクノロジにNECエレクトロニクスが合流、ルネサス エレクトロニクスが成立するに当たり、V/VRシリーズは整理統合の対象となる。最終的に、特に自動車向けに供給されていたV850は引き続きニーズがあったということで、V850E2/E3をベースにRH850が生まれ、ことし(2026年)に入ってもこのRH850ベースの新製品が発表されるなど引き続き提供されているが、これを唯一の例外として、2010年のルネサス エレクトロニクス成立のタイミングでVシリーズは市場から消え始め、もうほとんど残っていない。
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