AIの活用が広がるほど、サイバーセキュリティの重要性も増します。生産データには製造プロセスや品質基準、企業ノウハウに関わる機密情報が含まれることが多く、可能な限り自社の生産ネットワーク内に留めるべきです。AIアプリケーションの導入は、新たな侵入経路を増やすことでもあります。どれほど高速で強力なAIであっても、それが組織の攻撃対象領域を広げるだけであれば、価値を生みません。
こうしたリスクを踏まえ、ドイツ連邦情報セキュリティ庁(BSI)は、MECを重要インフラの潜在的な構成要素と位置付け、適切な保護策の重要性を指摘しています。セキュアブート、署名済みファームウェア、暗号化されたストレージ領域、ロールベースのアクセス制御、安全なアップデート機構は、現代のエッジセキュリティの土台となります。近年の産業用ストレージ製品では、AES-256暗号化やTCG Opal 2.0といったハードウェアレベルの機能に加え、識別情報を保護しストレージ媒体上で直接データを暗号化するハードウェアルートオブトラストを統合する例も増えています。
ローカルでのデータ処理は、セキュリティの向上だけでなく、外部プラットフォームへの依存低減にもつながります。多くの用途では、集約された結果やステータス情報、選別されたデータセットのみがクラウドに送信されれば十分です。
こうした要件を踏まえると、企業の意思決定者にとって、BOM(Bill of Materials)固定のような考え方がますます重要になります。BOM固定とは、現在入手可能で実績のある特定の構成部品を、数年間にわたり全く同じ構成で供給し続けるというメーカーの保証です。重要なのは、BOM固定がストレージデバイス上で動作するファームウェアも対象に含む点にあります。これにより企業は、部品や構成が変更されるたびに必要となりがちな、コストと時間のかかる再認証を回避できます。とりわけ規制の厳しい産業では、この効果は特に大きくなります。
メーカーやコンポーネントを選定する際は、透明性も重要な基準となります。AIアプリケーションに使われる部品が業務やプロセスにとって重要になるほど、悪意ある攻撃者にとっても魅力的な標的となります。従って、サプライチェーンのあらゆる階層にわたるエンドツーエンドのトレーサビリティが確保されていることが求められます。可能な限り、地理的に近く、独自のNANDパッケージングやコントローラー/ファームウェア開発能力を持つなど、供給網の独立性が高いサプライヤーを選ぶことも、地政学的な依存リスクを抑え、各種のコンプライアンス要件を満たす上で有効な選択肢になります。
産業エッジAIの成否を決めるのは、AIモデルの規模や性能ではありません。突き詰めれば、コンピュート、ストレージ、ソフトウェア、セキュリティ、接続性をいかに組み合わせるかという、インフラそのものの課題です。コンピュートは必要な処理能力を提供し、ソフトウェアはデータを判断に変え、セキュリティは知識とプロセスを保護し、接続性はシステムとデータソースをつなぎます。しかし、ストレージはそれら全てが依拠する基盤です。この構図は、工場の現場だけでなく、AIブームの最前線にあるデータセンターにも共通しています。
高速なGPUや大規模なモデルに注目が集まる今だからこそ、長期にわたって高い信頼性を保ち、トレーサブルかつ経済的に運用できる産業用ストレージの重要性は見落とされがちです。しかし、AIデータセンターであれ、工場や現場のエッジAIシステムであれ、その安定稼働を最終的に支えているのは、目立たないが確かな存在であり続けるストレージのサプライチェーンと技術要件にほかなりません。
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