TLCを1セル当たり1ビットで動作させる疑似SLCモード(pSLC)の機能について解説します。
TLC(Triple Level Cell) NAND型フラッシュメモリは、1セル当たり3ビットという高い記録密度を持つことから、ここ数年で産業用ストレージでの採用が急速に増えています。ただし、採用が増加する一方で、TLCを1セル当たり1ビットで動作させる疑似SLC(Single Level Cell)モード(pSLC)の機能はあまり知られていないようです。しかし、多くのアプリケーションにとって、このpSLCモードがもたらす経済的メリットはデメリットを上回り、SLCメモリとのギャップを埋めることができます。本稿では産業用3D(3次元) TLC NANDフラッシュを疑似SLCとして使用する4つの重要なメリットを紹介します。
TLC NANDフラッシュのP/Eサイクル(Programming/Erase)は通常3000回にとどまりますが、pSLCモードで使用した場合、前世代のフラッシュで3万回、最新のフラッシュ技術では最大10万回の耐久性を示します。
TLCは1セル当たり3ビットの情報を記録できます。これをpSLCモードによって1セル当たり1ビットとすることで、容量は3分の1に減ってしまいますが、耐用期間を最大33倍に延長することができます。このためpSLCは、メモリの長期間にわたる使用および、大量のデータ書き込みが要求されるアプリケーションに適しています。また、高コストを理由に交換やメンテナンスの間隔が長くなるケースや、使用を開始してからの正確な書き込み負荷が事前に分からないケースにも適しています。
また、pSLCモードの場合はページサイズ(書き込みアクセス毎に連続してプログラムする必要があるメモリセルの最小数)も3分の1に縮小されるため、書き込み増幅係数(WAF)が大幅に向上します。非常に多くのサイクル数に耐えられる上にページサイズも小さいため、アプリケーションが耐用期間を超えることはほとんどありません。従って、現場でのメンテナンスや交換の必要がなくなります。
TLCの場合、1つのセルに3ビットの情報を記録するには、セル内で23=8つの電圧を識別する必要があります。しかしpSLCモードの場合は1つのセルに1ビットしか記録しないため、読み出しロジックが識別しなければならない電圧は2つのレベルだけです。
最大電圧は半導体技術の種類によって制限されます。8つのTLC電圧間の差は、2つのpSLC電圧間の差よりもはるかに小さくなります。このためpSLCモードの方が、データの内容をより確実に認識できます。
メモリの信頼性は使用環境にも左右されます。3D TLCでは、データを書き込む時と後で読み出す時の温度差が大きいと、コントローラーに内蔵されたエラー訂正ユニットに大きな負荷がかかる場合があります(交差温度効果)。また、メモリセルの電荷損失は、時間だけでなく書き換え回数によっても指数関数的な影響を受けます。温度変化や電荷損失を原因として、読み出しロジックが8つの電圧レベルを明確に識別できなくなる場合もあります。
pSLCは長い年月をかけて膨大な書き換えを行った後でも、また大きな温度変化にさらされても、いつでも確実にデータを読み出すことができます。それ故、特に極端な温度条件下で使用する場合は最適な選択肢といえるでしょう。
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