民生電子機器向けの半導体ビジネスで成功するためには、必ずしも最速のSoCを最新かつ最高のプロセス技術で製造する必要があるというわけではない。このことを示唆する例を米LSI社の「ZEVIO」プロジェクトに見ることができる。
コストを重視する民生機器市場で、注目を浴びる製品を製造するためには必ずしも最新で最高のプロセス技術を用いてSoC(system on chip)を設計する必要はない。これは米LSI社のエンジニアらが、同社のマルチメディアプラットフォーム「ZEVIO 1020(以下、ZEVIO)」を設計した際に実感したことである*1)。
2004年12月、教育用電子機器メーカーの中国(香港)VTech Electronics社とIP(intellectual property)開発企業であるコトは、VTech社の子供向け教育玩具(エデュテインメントシステム)である「VFlash」用のマルチプロセッサSoCの開発をLSI社に依頼した(図1)。もともとASICベンダーであったLSI社は、そのころ標準ICベンダーへと転換しようとしていた。VTech社がLSI社にSoCの開発を依頼した際、LSI社の経営陣は、それまでのASICとは異なる汎用的なマルチメディアプラットフォームを開発するという設計方針を決めた。
ZEVIOプロジェクトのアーキテクトであるLSI社の藤本真也氏によると、この設計グループには以下の3つの制約が課せられていた。
藤本氏は、「われわれの設計グループは、民生機器向けASICの設計に関する経験が豊富で、家庭用ゲーム機器『プレイステーション』や『プレイステーション 2』、ポータブルオーディオ『iPod』の一部のチップを開発したことがある。その際、チップ設計においてはあまり重要ではないブロックの再定義にかなりの時間を費やしていることに気が付いた。それが今回のアーキテクチャを開発することにした理由だ」と語る。
ZEVIOのアーキテクチャを定義する際に行った最初のステップは、VTech社およびコトのシステム設計者らとミーティングを行うことであった。潜在的なボトルネック部分を解消するために、設計段階において顧客から可能な限り情報を収集するためである。
藤本氏は、「ZEVIOは典型的なアプリケーションプロセッサではなく、ヘテロジニアスなマルチプロセッサとして設計した。同一のプロセッサではないが並列に稼働する複数のプロセッサで構成し、各プロセッサがそれぞれに割り当てられたタスクの処理に専念するようにした」と説明する(図2)。
ZEVIOの設計グループは、一般的な処理のためのプロセッサとして「ARM9」を搭載することに決めた。LSI社では、それとは別にカスタムグラフィックスプロセッサと、サウンドプロセッサおよびメモリーコントローラを開発した。そして、迅速なデコード処理と符号/復号形式ごとに異なるアプリケーションを実行するためにLSI社が開発したDSPコア「ZSP」を搭載することとした。「独立に動作する複数のプロセッサを搭載することが主なテーマであった。その意図は、それぞれのプロセッサが独自にマスターとなり、メインCPUがかかわることなくそれぞれに割り当てられた処理を完了させることだ」と藤本氏はいう。内部バスやメモリーがボトルネックとなることなく、すべてが効率的に動作することを保証する必要があったからだ。
※1…(編集部注)LSI Logic社は2007年4月に米Agere Systems社と合併して、社名をLSI社に変更した。また、LSI社は、ZEVIOなどを担当するコンスーマ製品事業を、米Magnum Semiconductor社に売却することを2007年6月27日に発表した。2007年第3四半期中には売却が完了する予定。
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