カジノは、組み込み機器メーカーにとって、市場規模の面で非常に魅力的な存在である。最新のゲーム機器は、最先端のエレクトロニクス技術によって支えられているからだ。では、この分野で必要となる技術とはどのようなものなのだろうか。また、この市場の成長を妨げる要因があるとすれば、それは何なのか。本稿では、こうした疑問に対する答えをまとめる。
米国ラスベガスをはじめ、世界各地には合法的に運営されているカジノがいくつも存在する。そこに一歩足を踏み入れると、瞬く間にさまざまなゲーム機器からの音声/画像の嵐に身を包まれる。いずれの機器にも共通するのは、エンターテインメントの要素を提供しつつ、収益を最大化することを目的として巧みに設計されていることだ。
カジノで用いられる最先端のゲーム機器は、高い処理能力の演算機能とグラフィックス機能を利用している。また、システムの一貫性を保証し、ハッカー(クラッカー)からの攻撃を阻止するためのセキュリティ機能も備えている。カジノ業界では、ゲーム機器だけでなく、リアルタイムのプレイヤ追跡/監視システム、セキュリティシステム、データ解析システム、会計業務システムにもエレクトロニクスを利用している。新しい客を呼び寄せ、彼らを常連とするために、カジノ業界は、ますます複雑になるエレクトロニクス機器を継続的に新規導入しようとしている。つまり、カジノ業界にとって、システムメーカーや組み込みシステム設計者の力はなくてはならないものとなっている。
カジノ業界には、組み込みボード/機器の莫大かつ潜在的な市場が存在する。全世界のカジノの売上高は2004年の700億米ドル弱から、2009年には1000億米ドル以上にまで増加すると言われている。この売上高の約60%を米国のカジノが占める。売上高の増加と、カジノ施設の急増に伴い、それぞれの運営業者らは、最新のゲーム機器を導入することで、競合に負けずにプレイヤを引き寄せようとしている。カジノに限らず、宝くじ、競馬、あるいは慈善目的のビンゴゲームなども含め、各運営業者は、プレイヤへの情報提供手段の改善といった目的も含めて、組み込みエレクトロニクスを利用し始めている。
古くからエレクトロニクスを活用しているゲーム機器にスロットマシンがある。昔、ラスベガスのカジノ経営者らが、賭博に夢中になっている男たちのそばで暇を持て余す妻や同伴女性のために設置したのがスロットマシンの始まりであった。それ以来、スロットマシンは、コインを出し入れする形の機械仕掛けのものから、紙幣のみを受け付けてクーポンで返金する今日の電子的な装置へと改造されていった。現在でも1セント単位でプレイできるものもあるが、複数のペイラインや隠れたボーナスを設定するなどして、プレイヤが賭け金をつり上げたくなるように設計されている。
ブラックジャック、ポーカー、ルーレットなど、昔ながらのテーブルゲームも電子化されつつある。これらのゲームと同じ機能を提供する組み込み機器が登場し、楽しく、素早くゲームができるようになっている。電子化されたゲーム機器は、カジノの売り上げの70〜80%を稼ぎ出している。
カジノ業界は安定した市場であり、組み込みシステム設計者やメーカーに対して莫大なビジネスチャンスを提供している。ただし、防衛/航空業界で用いられる機器と同様に、カジノのゲーム機器は厳しい規制の下にある。カジノ向けのゲーム機器は、製造およびテストの認可プロセスを経なければ実際に使用することはできない。例えば、電子機器として構成されたスロットマシンは、カジノ施設に設置されるまでに、GLI(Gaming Laboratories International)など外部の試験機関による細かい認定監査を受けなければならない。その際には、すべての電子回路や、物理的なセキュリティレベル、ソフトウエアの一貫性などが検査される。GLIからは一連のゲーム機器規格が提供されており、各種認定機関はそれをそのまま、あるいは変更して利用することができる。
製品の認可はコストのかかるプロセスである。また、その認可はハードウエア/ソフトウエアから成る単一の構成にのみ有効なものとなる。つまり、変更や更新のたびに認定機関による再認可が必要となる。新しい組み込みボードの認可を受けるためのコストは、たとえそれが枯れた技術を採用した部品ばかりで構成したものであっても、ボードを購入したり製造し直したりするコストをはるかに超えてしまう。そのため、システム設計者は通常、長期間にわたって使用可能な、検査し尽くしたサブシステムを採用する。この業界のメーカーは、部品の大量購入やチップベンダーとの製造契約期間の長期化など、製品のライフサイクルを延長するためのいくつかの方策をとっている。
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