メディア

10GbEが抱える課題と将来展望普及の鍵はICのコストと消費電力(2/2 ページ)

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[Ann R Thryft,EDN]
前のページへ 1|2       

複雑さと消費電力の増大

 2002年に策定された最初の10GbE規格であるIEEE 802.3aeは、光伝送媒体用のいくつかの物理層インターフェースを定めていた。2004年には短距離ネットワークについて改定が施されたIEEE 802.3ak-2004が策定され、10GBASE-CX4にのっとった物理層ICを用いて15mの同軸ケーブルによって10GbEを実現することが可能となった。1000BASE-Tと比べて10GBASE-Tのデータ速度では、エコーやクロストークのキャンセルのためにIC内で非常に複雑なデジタル信号処理を行う必要があり、より高度なアナログ回路も必要となる。加えて、受信信号をクリーンアップするために、すべての処理を1000BASE-T規格の10倍もの速さのリンク上で実施する必要がある。IEEEの10GBASE-T作業部会の会長を務めた経験を持つEthernet Alliance会長のBrad Booth氏によると、「1000BASE-T規格では補正のためのマージンが大きくとられていたが、10GBASE-Tではそれがない」という。

 10GBASE-T規格では、短距離(最大30m)のカテゴリ6の4線UTP(unshielded twisted pair)ケーブルを用いた物理層インターフェース用のサブセットが設けられている。これは、低消費電力動作モードを実装するための手段として用意された。「規格の設計者らがドラフトを作成した時点では、100mの通信距離に対応した多くの機器の消費電力は10W〜12W程度であった。この消費電力では、スイッチアプリケーションへの10GbEの採用が制限されてしまうことが問題だった」とBooth氏は述べる。30mのオプションを適用した短距離アプリケーションでは、物理層での消費電力を低下させることができる。それによりノイズがかなり低減され、多くのキャンセル回路が不要となる。データセンターのネットワークの70%は伝送距離が55m以下であるため、10GBASE-Tでは55mまでの距離に対して、カテゴリ6のケーブルを使用することも許容している。ただし、この距離での動作においては、消費電力を削減することはできない。

 そのほかの物理層ICの問題としては、ポート当たりのコストを抑えるために複数のポートが必要となることや、伝送速度が1ギガビット/秒もしくは100メガビット/秒などのイーサーネットとの下位互換性を持たせるためにマルチスピードのポートが必要になることが挙げられる。

 銅ケーブルを用いて10GbEを実現するための別の方法としては、ホットプラグが可能な光トランシーバモジュールを用いることなども考えられる。例えば、SFP+(small form factor pluggable plus)モジュールは、1世代前のSFPモジュールよりも小型で消費電力が少ない。そのため、ラインカード上のモジュール密度を高くすることができ、ポート当たりのコストを抑えることが可能になる。データセンター内の接続などに適した約10m〜15mの伝送距離向けにSFP+銅2芯同軸(twinaxial)ケーブルなども開発されている。

10GbE対応ICの課題と現状

 現在、銅ケーブルによって10GbEを実現するためのICのほとんどは、130nmもしくは90nmのプロセス技術で製造されている。「今後はさらなる低コスト化が可能な65nmプロセスへと移行し、生産量も増大するだろう」とThe Linley Group社のBolaria氏は述べる。業界では、45nmプロセスまで進まなければ、生産量の増加を促進するような低消費電力が達成されないとの見方もあり、45nmプロセスによって10GBASE-Tに必要なアナログ回路の一部を集積しようとする動きもある。しかし、「ここまで微細化が進むと、大量のアナログ回路が問題になる可能性がある」とEthernet AllianceのBooth氏は述べている。その上で同氏は、「代替案の1つとして、アナログフロントエンドICとデジタルバックエンドICを搭載したマルチチップモジュールが考えられる」としている。

 生産量が拡大する、いわゆる「量産」の定義はあいまいである。Bolaria氏は、「量産とは、ポート数換算で1000万〜2000万個となるレベルのことだ」と説明する。2007年、物理層インターフェースを有した10GbEスイッチのポート数は約64万個を記録、それらのスイッチには消費電力10Wの物理層ICが搭載された。Bolaria氏は、「今後、物理層ICの消費電力は5W未満となり、各メーカーから出荷されるポート数は合計で数百万個に達すると見られる。ただし、2000万個以上のポート出荷数を実現するには、物理層ICの消費電力を2W未満にする必要があるだろう」と述べている。なお、IC当たりのポート数が増加するに連れて、IC自体の生産量は多少減少すると考えられる。

 イスラエルTehuti Networks社のバイスプレジデントであるBlaine Kohl氏によると、「一般的な10GbEのNICの消費電力要件は約25Wだが、設計者はそれを15W程度にまで抑えようと努力している」という。消費電力が7Wの物理層ICを用いることで、シングルポート10GbEのNICを構築することができるが、設計を工夫することによって消費電力をさらに低減することが可能である。メーカー各社は、10GBASE-Tの物理層ICを用いて、シングルまたはデュアルポートのアダプタなどを製造すると見られるが、スイッチにおいては消費電力3W程度の物理層ICが必要とされる。2010年までには、消費電力が3W〜4Wの物理層ICが提供されることが予想され、そのころには消費電力が2W〜3WのコントローラICと物理層ICを1つのパッケージに搭載可能になると期待されている。いずれ、各メーカーは10GBASE-T対応製品を量産出荷するようになり、スイッチには10GBASE-Tの物理層ICが搭載され、エンドポイントには10GBASE-Tパッケージが採用されると見られている。

 米Solarflare Communications社は、すでに10GbEのコントローラICおよび10GBASE-Tの物理層ICのサンプル出荷を開始しており、第2世代の製品として新たに65nmプロセスを採用したICを発表している。10GBASE-T物理層ICの消費電力は6W未満を実現しており、最小100メガビット/秒のマルチスピードオートネゴシエーション機能を有している。また、10GbEのコントローラICの消費電力は2.2Wを実現しており、仮想化アクセラレーション機能を特徴としている。Solarflare社マーケティング担当バイスプレジデントであるBruce Tolley氏によると、同社は2009年に10GBASE-Tの物理層ICおよび10GbEのコントローラICを搭載した1チップのLOM(LAN on motherboard)デバイスを発売する予定だという。

 米Teranetics社の10GBASE-Tマルチレート物理層IC「TN1010」はCMOS製品であり、1GbEおよび100メガビット/秒のイーサーネットに対応している。同社は2008年中にも65nmプロセスを採用した新製品の供給を開始する予定だ。同社CEO(最高経営責任者)のMatt Rhodes氏は、「65nmプロセスを採用した次世代ICでは、従来品の10W程度の消費電力を30〜40%ほど削減することが可能だ」としている。

図2 製造プロセスと消費電力の関係 図2 製造プロセスと消費電力の関係 130nmプロセスから65nmプロセスへの移行によって、10GBASE-T ICの消費電力は大幅に低下し、ほかの機能の追加が可能となる(提供:Broadcom社)。

 米Fulcrum Microsystems社のシングルチップで24ポートの10GbE IP(internet protocol) Version 4/6対応スイッチ/ルーターICである「FM4000」は、高性能コンピューティング、サーバーやストレージとホスト間の接続、さらにはデータセンターにおけるアグリゲーションなど、データセンターのスイッチングプラットフォームでの利用をターゲットとしている。レイヤー2/3/4のチップは、すべてのポートでフルライン速度の性能を実現し、合計スループットは3億6000万パケット/秒である。これらの製品について、同社社長兼CEOのBob Nunn氏は「遅延は300nsで、InfiniBandやFibre Channelなどの特殊なネットワークの性能を超える高い応答性を誇る。高性能なクラスタコンピューティングなどの用途にも適している」と述べている。

 米Broadcom社は、10GbEに対応したシングルチップのスイッチIC、コントローラIC、および光トランシーバICなどを製造している。同社でネットワークスイッチング事業担当マーケティングディレクタを務めるEric Hayes氏によると、「こうしたICを製造する65nmプロセス技術には、かなりの工夫が必要だ」という。特にスイッチは、アナログとデジタル両方の部品を搭載し、集積度が高いため、高度な技術が用いられているという。65nmプロセスを採用したスイッチIC「BCM56820」の消費電力は、10GbEの1ポート当たり1Wで、ポート当たり11Wであった前世代(130nmプロセス)のスイッチICと比べて大幅な低消費電力化を実現している(図2)。「セキュリティ、レイヤー4の高いQoS(quality of service)、レイヤー3のルーティングなど、1GbEにあったすべての機能と性能を備えた10GbEへと移行することが求められている」と同氏は述べる。

 Tehuti Networks社の光10GbE向けシングルポートNIC「TN7587-S」やデュアルポートNIC「TN7587-D」などの新しいSFP+アダプタリファレンスデザインは、同社のシングルチップ10GbEシングルポート/デュアルポートコントローラ「TN3016」をベースとしている。このリファレンスデザインは、米AMCC(Applied Micro Circuits Corporation)社の10GbE SFP+物理層IC「QT2025」を搭載している。2つのSFP+光モジュールを搭載したTN7587-Dの消費電力は15Wである。なお、シングルポートとデュアルポートのコントローラの消費電力は、それぞれ6Wと7Wである。

今後の展望

 多くの企業はすでに、10Gビット/秒のリンクをアグリゲーションした40ギガや10ギガのイーサーネット(40GbE、100GbE)をデータセンターに導入することを検討し始めている。The Linley Group社のBolaria氏は、「電話会社などは100GbE対応の製品を要求してきている」と述べる。「Facebook」、「Netflix」、「YouTube」といったビデオオンデマンド型のアプリケーションに対応するために、通信事業者やISP(internet service providers)の広帯域ネットワーク技術への要求は高く、40GbEを飛び越えて100GbEが採用される可能性があるとの見方もある。

 ただ、Dell'Oro Group社のWeckel氏は、「何よりもまず、伝送速度の低いイーサーネットでのアグリゲーションを実現する技術が確立されていない。このことが市場の拡大を妨げる可能性がある」と述べている。低速リンクのアグリゲーションを成功に導くためには、メーカーはより高速な製品を出荷する必要がある。しかし、10GbEで接続されたサーバーをアグリゲーションしようとしても、データセンターへアップリンクするための40GbEや100GbEのラインカードが存在しない。そのため、「こうした技術が本格的に普及するには、高速のアップリンク技術が必須だ」とWeckel氏は述べる。

 米Intel社の次世代サーバー向けCPUなどが登場することで、マザーボードに10GbEのインターフェースを備えたサーバーが出現するようになると、要求はさらに高まることになると見られる。最終的には、自宅のパソコンにまで10GbEが導入されるようになるかもしれない。いずれにしても、イーサーネットはネットワークを構築する上での重要な選択肢であることは確かであり、そのことが10GbEの普及を促進する要因であるとも言える。

脚注

※1…Wheeler, Bob, "10G Ethernet Adoption in Volume Servers," The Linley Group, 2006

※2…"Moving 10 Gigabit Ethernet into a Volume Platform," Ethernet Alliance, 2006

※3…"10GBASE-T: 10 Gigabit Ethernet over Twisted-pair Copper," Ethernet Alliance, 2007

※4…Gumanow, Gary, "Solving the Hypervisor Network I/O Bottleneck: Solarflare Virtualiza tion Acceleration," Solarflare Communications, 2007


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.