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計装アンプのコモンモード範囲Baker's Best

» 2010年04月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 前回は、3個のオペアンプで構成した計装アンプの内部動作について説明し、そのCMRR(同相信号除去比)に影響を及ぼす主な要因を明らかにした*1)。CMRRも意外に複雑なものだが、計装アンプのコモンモード範囲(Common-mode Range)を問題とする場合には、さらに深い検討を要する。計装アンプのさまざまな特性の中でも、コモンモード範囲は、最も誤解されている項目である。そこで今回は、計装アンプのコモンモード範囲はどのようにして決まるのか考察してみることにする。


図1 計装アンプの各ノードの電圧 図1 計装アンプの各ノードの電圧 

 コモンモード範囲について考える際には、入力やゲインに起因する過負荷(以下、入力/ゲイン過負荷)が発生する条件が重要なポイントになる。計装アンプでは、以下の各ノードにおいて入力/ゲイン過負荷の問題が生じ得る(図1)。すなわち、計装アンプの入力端子VIN+とVIN−、オペアンプA1と同A2の出力端子VOA1とVOA2、オペアンプA3の出力端子VOUTの各ノードにおいて、電圧レベルの各許容条件が問題になる。このように分解して考えていくと、計装アンプからの出力が正常な範囲内にある場合でも、その出力が入力信号を正確に反映したものであるとは限らないということに気付くはずだ。

 計装アンプの入力端子に加わる入力電圧を、コモンモード電圧(VCM)±差動入力信号電圧(1/2×VDIFF)として表すとしよう。これら2つの入力電圧成分の許容範囲は、入力段のオペアンプA1とA2の特性によって制限される。そして、この入力電圧の許容範囲(最大値と最小値)はデバイスごとに異なる。

 オペアンプA1、A2の出力電圧は、入力電圧VIN+とVIN−、およびA1、A2部のゲインGに応じて上下する。ここでA1とA2は、コモンモード電圧VCMを増幅しないということがポイントの1つである。A1またはA2の出力電圧、あるいはそれら両方が許容範囲を超えると、入力/ゲイン過負荷が生じる。しかし、A1、A2の出力はチップ内部のノードなので、そのような状況が起きているか否かを直接確認することはできない。つまり、VOA1およびVOA2に対する制限条件を満足しているかどうかは、図1に示した各式を用いた計算によって確認するしかない。このタイプの入力/ゲイン過負荷条件は、計装アンプの入力、すなわちA1、A2あるいは両方への入力が、正負どちら側も正常な範囲内である場合にも生じ得る。これらのノードで入力/ゲイン過負荷が起きると、オペアンプA3の出力電圧(計装アンプの基準電圧VREFとの加算結果)も誤差を含むものになるが、この電圧自体は、オペアンプA3の出力許容範囲内になることもあり得る。

 加えて、入力/ゲイン過負荷条件は、計装アンプの最終出力であるVOUTでも生じ得る。A3の出力の許容条件は、一般的なオペアンプの許容条件と同様である。例えば、単電源動作の計装アンプの場合、完全に電源レール間にわたる出力振幅は許容できない。

 図1のような構成の計装アンプは、一見すると不可解な動きをするように見えることもあるかもしれない。それについて理解するには、内部のオペアンプA1とA2の動作について考慮する必要がある。計装アンプの入出力特性が線形になるコモンモード範囲は、A1、A2それぞれからの出力電圧がどうであるかによって制限される。ほとんどのメーカーは、自社計装アンプ製品のデータシートに、入力/ゲイン過負荷条件を図示しているので、それらを有効に活用したい。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com



脚注

※1…『計装アンプのCMRR』(Bonnie Baker、EDN Japan 2010年3月号、p.22)


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