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1次電池を組み込みシステムで活かすDC-DCコンバータとの併用で(2/2 ページ)

» 2011年07月08日 19時07分 公開
[Keith Odland(米Silicon Laboratories社),EDN]
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DC-DCコンバータとの併用

 ほかの多くの工学的問題に対処する場合と同様に、電池に関しても、設計者はシステムの仕様を満たす最善の方法を見出すために、相反する要求を同時に解決しなければならないことがある。

 スタンガンを例に取る。スタンガンは相手に数千Vの高電圧を与え、一時的に神経系を混乱させて意識を失わせるために使用される。この高電圧は、トランスを用いて、基になる電池の電圧を数千倍に高めることで実現している。では、トランスが使えず、電池だけでこれを実現しなければならないとしたらどうなるだろうか。仮に、3万個のAAA(単4)アルカリ電池を直列に接続するという方法を選択するとしよう。この設計だと4万5000Vの電気ショックを与えることはできるが、長さは0.8マイル(1.3km)以上、重量は792ポンド(360kg)以上という巨大なスタンガンが出来上がることになる。

 上に示したのはかなり極端な例だ。だが、この例は、現代の電子技術(電子部品)を使用することで、「できるだけ大きな供給電力」と「できるだけ小さなサイズ」という相反する要件を克服できることを表している。

 別の例を考えてみよう。空気亜鉛電池では、1.69MJ/kgという高いエネルギー密度が実現されている。加えて、大きなピーク電流を流せる能力を持つことから、空気亜鉛電池は補聴器に多用されている。この電池は、一般に電解反応が終了するまでの時間が比較的短いため、寿命は3カ月以下にしかならない。しかし、この短い寿命は補聴器の用途では許容されている。

 空気亜鉛電池のもう1つの特徴は、単一セルの場合の公称電圧が標準で1.4Vと低いことである。補聴器専用に設計された低電圧回路により、1.4Vという低い電圧を電源に用いることができているが、これほど低い電圧の電池を一般的な組み込み電子回路の電源として適用するのは簡単なことではない。1.4Vの電池を標準的なCMOS回路で使用するには、現在の仕様とは異なる新しい仕様を作らなければならないだろう。この例で言えば、空気亜鉛電池は、「高いエネルギー密度を備える」と「一般的な組み込み電子回路に容易に適用できる電池電圧を持つ」という両方の要件は満たせていないことになる。

 幸い、こうした問題に対処するために、多くのデバイスにおいて先進的な電力管理ユニットの集積化が進んでいる。例えば、昇圧型DC-DCコンバータを集積したチップであれば、空気亜鉛電池から入力された1.4Vの電圧や、一般的なアルカリ電池から入力された1.5Vの電圧を、システムが必要とする適切な電圧まで昇圧して動作することができる。

表2 ガラス破壊センサーの動作モード 表2 ガラス破壊センサーの動作モード 

 より重要なことは、ダイナミックなプログラミングが可能な昇圧型DC-DCコンバータを利用すれば、電池からのエネルギーが常に最も効率良くシステムに渡されるように、出力電圧をシステムのニーズに応じて変更できるということである。この動作を利用することにより、システム設計者は動作中のシステムの状態に応じて電源効率を最適化することが可能になる。

 例として、ホームセキュリティ用の双方向ワイヤレスセンサーノードについて考えてみる。このセンサーノードを、送信回路と受信回路から成る双方向通信リンクを備えたガラス破壊検出センサーとして使用するとしよう。センサーは窓の状態を監視し、窓と電池の状態を主制御パネルに周期的にレポートする。センサーと制御パネルとの間の通信は、送信/受信/確認応答のプロトコルを使用して行われる。センサーは電池の寿命を最大限に延ばすために、ほとんどの時間を低電力モードで動作する。表2はガラス破壊センサーの動作モードの定義を表している。

図1 ガラス破壊検出システムの構成 図1 ガラス破壊検出システムの構成  ガラス破壊検出システムは、DC-DCコンバータを内蔵するマイコン、サブギガヘルツ帯の無線トランシーバ、圧電センサー、アルカリ電池で構成される。

 上記のシステムは昇圧型DC-DCコンバータを内蔵するマイコン、サブギガヘルツ帯に対応した無線送受信回路(トランシーバ)、衝撃を感知する圧電センサー、およびアルカリ電池から構成される(図1)。このシステムについて、以下の4点を仮定してみよう。

  • 圧電センサーは自己給電によって動作し、ガラスが破壊された場合に振幅が3.0Vのパルス信号を発生する。このパルス信号が、マイコンを起動する外部割り込みのトリガーとなる
  • マイコンのコアの動作電圧は、昇圧型DC-DCコンバータによって1.8Vに調整される。また、RAM、電力管理ユニット、リアルタイムクロックは0.9Vの低電圧で動作可能である。つまり、マイコンはアルカリ電池で動作させることができる
  • 送信回路のパワーアンプは、電圧レールが電源レールの最大定格値に近づくと、より高い出力電力と効率を実現する
  • マイコンが内蔵する1.8V出力のDC-DCコンバータは、LNA(低ノイズアンプ)、レシーバチェーン、PLL(Phase Locked Loop)、および無線回路のシンセサイザにも給電する
表3 コイン型リチウム電池を用いる場合のエネルギー 表3 コイン型リチウム電池を用いる場合のエネルギー 

 これらの仮定について注意深く考察すれば、電池からの電圧を基に電源電圧をダイナミックに調整することによって、システムの電力効率と性能の最適化が図れることは明らかである。例えば、トランシーバは3.0Vで動作しているときに最大の送信電力効率が得られる。アルカリ電池の標準電圧は1.5Vなので、DC-DCコンバータを使って3.0Vに昇圧して動作させることにより、およそ90%の効率を達成することができる。しかし、DC-DCコンバータはレシーバチェーンの電圧を1.8Vに制限している。レシーバの動作中には3.0Vを供給することとし、別のLDO(低ドロップアウト)レギュレータで降圧するとしたら、その効率は60%程度しか得られない。従って、DC-DCコンバータの出力電圧を3.0Vから1.8Vの範囲でダイナミックに調整し、センサーの受信動作中に電力効率を高めるというのが非常に良い手法となる。

 ここで、2つのシステムについて考えてみる。1つは、固定電圧レールを持つコイン型リチウム電池を使用するシステムである。もう1つは、ダイナミックに制御可能なスイッチング方式のDC-DCコンバータとアルカリ電池を使用するシステムだ。コイン型リチウム電池を用いるシステムの場合、電池の電圧は3.0V。DC-DCコンバータは使用しないので、スイッチング損失は0%である。一方、アルカリ電池を用いるシステムは、10%程度のスイッチング損失が発生すると仮定しよう。

表4 アルカリ電池を用いる場合のエネルギー 表4 アルカリ電池を用いる場合のエネルギー 

 表3表4に、ワイヤレスセンサーアプリケーションでそれぞれのシステムを使用した場合に、各モードにおいてどのくらいのエネルギーが必要になるのかを示した。表3は3.0V/620mAhのコイン型リチウム電池(CR2450、米国での価格は約62米セント)、表4は1.5V/1125mAhのAAAアルカリ電池(米国での価格は約25米セント)とDC-DCコンバータの使用を前提としている。なお、スリープモードの時間は、1秒から、そのほかすべて(処理/送信/受信など)の時間を引いた時間としている。

 この使用条件の場合であれば、CR2450の寿命はおよそ4.33年である。同じ使用条件下で、AAAアルカリ電池は約4.65年の寿命となる。すなわち、AAAアルカリ電池は、CR2450に比べて効率が16%高く、寿命が7%長い。しかも、電池自体のコストは60%低い。この比較から、エネルギー変換に最新のダイナミックな技術を使用することによって得られるメリットを把握できる。これらのメリットは、動作モードのデューティサイクルに強く依存している。デューティサイクルが増加するに従い、スイッチング方式のDC-DCコンバータとアルカリ電池を組み合わせて使用するメリットは大きくなる。DC-DCコンバータの出力は、リチウム電池の電圧よりも0.3V高い3.3Vとすることができ、より大きな出力電力と拡張された電源範囲を提供できる可能性がある。

  *  *  *

 1800年にAlessandro Volta氏が「ボルタの電堆(塩水を含ませた布をはさみながら、亜鉛板と銅板を交互に積み重ねたもの)」を発明してから200年余り。電池の技術とチップレベルの電力管理技術は大きな進歩を遂げてきた*1)。化学、電気工学、製造技術の分野における200余年にわたる技術革新により、Volta氏が最初の電池を発明したときに比べて、設計/機能の両面で数千倍の改善が達成された。今日のシステム設計者にとって、次世代の組み込みシステムの設計をサポートできる適切な電池を選択するためのオプションは、かつてないほど多岐にわたっていると言えるだろう。


脚注

※1…"Voltaic pile," Wikipedia, http://www.edn.com/common/jumplink.php?target=http%3A%2F%2Fen.wikipedia.org%2Fwiki%2FVoltaic_pile


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