第5回では、デジタルオーディオのクロックジッターに焦点を当て、その定義や測定法、オーディオ特性との関係について詳しく解説する。「クロックジッター」と一言で表現しても、クロックとジッターには多くの種類がある。オーディオ特性への影響を評価する際には、「どのクロック」の「どのようなジッター」かをきちんと説明できることが大切だ。
ここ数年、デジタルオーディオ分野の業界専門誌やオーディオ雑誌、PCオーディオ雑誌などで頻繁に登場するキーワードに「クロックジッター」がある。重要なキーワードであるにも関わらず、記事の筆者が内容を明確にしないまま、解説しているケースも多い。そこで第5回では、デジタルオーディオのクロックジッターに焦点を当て、その定義や測定法、オーディオ特性との関係について詳しく解説する。
クロックジッターに触れる前に、クロックについて簡単に説明しておこう。デジタルオーディオにおいては、数多くのクロック源が存在する。例えば、システム動作用のリファレンスクロックや、オーディオD-Aコンバータ(DAC)IC動作用のマスタークロック、PCM信号クロックなどである。
クロックはデジタル信号であるため、基本的に縦軸の振幅に対する誤差よりも、横軸の時間に対する誤差が重要となる。例を挙げると、クロック周波数(周期)は最も重要な基本スペックであり、この他にもクロック信号の品質に対する多くの時間軸スペック(通常は、タイミングスペックやタイミング規定)がある。クロックジッターは、これら時間軸スペックの1つである。
図1に一般的なクロックのタイミングスペックを示す。クロック周期はtp、半周期はtdであり、基準レベルは50%遷移点である。クロックの立ち上がり時間はtr、立下がり時間はtfであり、基準レベルは10%/90%遷移点である。これらのスペックは、ロジック回路の確定タイミングを決める重要な指標である。クロック半周期タイミングtdは、「デューティーサイクル(Duty cycle)」として規定することもある。クロック周期tpはクロック周波数として表現される。初期誤差(偏差)が規定されるとともに、電源電圧や動作温度、動作時間などの変化に対するドリフト特性が規定されているのが一般的である。
これに対してクロックジッターは、初期誤差やドリフトと明確に区別されるべき、時間軸の不確実性要素である。例えば、周波数が1MHzのクロックであれば、1秒間に106個のクロック波形が存在し、周波数としてカウントする時はクロック数で周波数が表示される。ここで、106個の各クロックの周期1000ns(1/1MHz、ナノ秒)を個別に分析すると、106回全てが1000nsではなく、1クロック周期ごとに±X nsの誤差が存在する。これが、「クロック周期の不確実性=ジッター」として定義されることになる。
それではさらに話を進め、クロックジッターの解説に移ろう。“クロックジッター”と一言で表現してもクロックとジッターには多くの種類があり、「どのクロック」の「どのようなジッター」が重要であるかの解説がなされていないケースも多く見られる。
最初に、クロックの種類について整理して紹介する。図2に一般的なUSB DAC機器のクロック系統の概要を示す。オーディオ信号を含むデジタルオーディオ・インタフェースとしては、S/PDIF(Sony / Philips Digital InterFace)とUSBインタフェースが標準的に用いられている。これらのSPDIFやUSBの伝送クロック上のジッターは「伝送ジッター」であり、オーディオ機器内部のクロックとは直接関係無いことに注意したい。機器内には幾つかのクロックソースが存在しており、デコーダー動作用基準クロック、マイコンなどのシステム制御用クロック、オーディオ回路用オーディオマスタークロックがその代表例である。
結論から言えば、オーディオ特性に直接影響を与えるのは、オーディオマスタークロックである。このクロックは、D-A変換回路やD-AコンバータIC動作に用いられ、PCM信号の基準サンプリングレート(fs)に同期している必要がある。従って、fsに対してn×fs(例えば、256×fs、384×fsなど)の関係を有する。D-AコンバータICの変換精度(オーディオ特性)は、このオーディオマスタークロックのジッターに影響されることになる。
クロックジッターのレベルは、オーディオマスタークロックの生成方法により異なる。一般的には主な生成方法として、(1)水晶発振クロック、(2)デジタルシンセサイザー・クロック、(3)PLLクロックの3種類がある。 もちろん、水晶発振クロックが最も低ジッターとなる。なお、図2におけるSPDIFクロックや動作基準クロックなどのオーディオマスタークロック以外のクロックソースは、D-Aコンバータの変換精度に直接関係しない。
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