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» 2012年08月23日 14時00分 公開

誤解していませんか!? クロックジッターの「真実」を解説デジタルオーディオの基礎から応用(5)(3/3 ページ)

[河合一,EDN Japan]
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クロックジッターがD-A変換特性に与える悪影響

 現在のデジタルオーディオ機器に採用されているD-AコンバータICは、ΔΣ変調と、SCF(Switched Cap Filter)あるいはカレント・セグメントを組み合わせた方式が主流となっている(関連記事:オーディオ機器の要「D-AコンバータIC」の機能と構成)。

 一般には、SCF方式はカレント・セグメント方式を採用した品種よりも耐ジッター性に優れているとされるが、耐ジッター特性は個々のデバイスモデル、製品グレードごとに異なるのが事実である。従って、ジッターの影響度を正確に判断するには、実条件下で実測するしか方法がない。ミドルレンジ・ハイエンドグレードのD-AコンバータICの実績を例に挙げると、ヒストグラム測定によるマスタークロックのジッター量が200ps(ピコ秒)未満で あれば、実際のオーディオ特性にほとんど影響無いと言える。この200psという数値は、一般的なSPDIFデコーダーICの内蔵PLLで生成されるマスタークロックのジッターの実力値と同等である。

 図6にオーディオD-AコンバータICの全高調波ひずみ+ノイズ(THD+N)対信号レベル特性がジッターによってどれだけ影響を受けるかという例を示す。ジッターの無い(実際には、水晶発振でも20〜30psのジッターはあることに注意)理想クロック状態に対して、ジッターを含んだクロックが入力されると、このTHD+N特性が劣化することになる。

図 図6 THD+N対レベル特性のジッターによる影響

 具体的には、ΔΣ変調器の帯域内ノイズの上昇(THD+NのうちNの悪化)や、出力信号に「アパーチャー誤差」と呼ぶ誤差成分が含まれることによるリニアリティー誤差(THD+NのTHDの悪化)の発生として現れてくる。ジッターの成分にも関係するが、比較的小さい信号レベルに対して劣化レベルの大きいものと、比較的大きい信号レベルに対して劣化レベルの大きいケースが存在する。もちろん、このTHD+N特性の劣化レベルはジッター量とコンバータICの品種ごとに異なるので、ここではあくまでもジッターによってオーディオ特性が劣化する一例として示していることに注意してほしい。

デジタルオーディオ機器のジッターレベルの実際

 オーディオマスタークロックの生成は、クローズされたシステムであるデジタルオーディオ機器(オーディオCDなどのデジタルオーディオ・ソースのD-A変換再生がその機器のみで完結するものをクローズされた機器と定義。逆に、AVアンプなどは複数のデジタル・インタフェースを有するのでオープン機器と定義)、例えば、オーディオCDプレーヤーや、Super Audio CD(SACD)プレーヤーであれば、基準サンプリングレート(fs)は単一固定(例えば、オーディオCDではfs=44.1kHz)であるので、n×fsのオーディオマスタークロックも水晶発振をベースにした低ジッター・クロックが使える。

 これに対して、AVアンプ/レシーバーやPCオーディオ機器、USBオーディオ機器では、オーディオマスタークロックの生成手法が異なる。これは、入力されるオーディオ・インタフェースの基準サンプリングレート(fs)が広範囲で、少なくともfs=44.1kHz/48kHzと複数であること、そして復調PCM信号のfsと同期関係が要求されるためである。オーディオマスタークロック生成には、SPDIFデコーダーまたはUSBデコーダー部のPLL機能を使うのが一般的である。

図 図7 シンセサイザのジッター特性例

 この場合、PLL性能が生成クロックのジッターを決定する。そのジッター量は、100〜300ps程度の領域である。低ジッター動作を特長とした製品では、「デジタル・シンセサイザー」や「2nd・PLL」、「SRC」、「リサンプリング」といった低ジッター化技術によって、水晶発振のジッター量である50ps未満、または同等未満の低ジッター(10ps未満)のマスタークロックを生成している品種もある。図7にデジタル・シンセサイザーICの生成クロックジッター特性例を示す。このICは、USB DAC製品において低ジッター化のために使われている。


Profile

河合一(かわい はじめ)

 オーディオを専門とした評論家、ライター。日本オーディオ協会会員、AES(Audio Engineering Society)正会員。

 山水電気に1976年4月に入社。サービス部や技術管理部などでオーディオ機器および電子回路の設計、半導体評価といった基礎・応用技術の開発に携わる。1985年1月に日本バーブラウンに転職し、高精度リニアーICのアプリケーションエンジニアを担当した。業界トップクラスの性能のアナログIC(オペアンプ、計測アンプ、絶縁アンプ、対数アンプなど)や、コンバータICの応用技術と高精度アナログ信号処理技術を取得。1980年代後半以降、デジタル・オーディオ用コンバータICの専任となり、多くのデバイス開発に携わる。アプリケーションエンジニアマネジャーとして全世界の顧客対応を担当した他、フィールドアプリケーションエンジニアに対する技術トレーニングも実施。

 Texas InstrumentsがBurr Brownを買収したことに伴い、2001年1月に日本テキサスインスツルメンツに移籍。デジタル・オーディオ用コンバータ製品のアプリケーションマネジャー、オーディオ・エキスパートとしてシステム/アプリケーションの開発支援業務を幅広く担当した。これまでに、オーディオ関連の技術資料や技術記事を多数執筆。2009年6月にフリーランスの評論家、ライターとして活動を開始した。



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