電源ノイズがデルタ-シグマA-Dコンバーターに与える影響について考えます。
本連載では、A-Dコンバーター(ADC)の外付けあるいは内蔵のアナログ部品から生じるノイズに注目してきました。今回からは本連載の最後のトピックとして電源に起因するノイズを分析します。このノイズは、ADCの外側で発生します。ノイズの多い電源をクリーンにする低ドロップアウト(LDO)レギュレーターや、入力電圧範囲を拡張するチャージポンプといった、電源管理機能を内蔵するADCもあります。ですが、これらの機能だけでなくADC自体にも、外部の電源からの給電が必要です。そして、ミクストシグナルデータ収集システムの他の部品と同様に、電源もノイズの原因となります。
幸いにも、電源ノイズの解析は、本連載で述べてきた他のノイズ源と同じように行えます。電源がある程度ノイズに寄与することは想定できるでしょうが、システム性能にどれくらい影響するかは、電源から来るノイズのレベルや種類によって変わります。例えば、携帯用アプリケーションに使われる3Vリチウムイオン電池は、ADCの特性評価に使われる高精度のベンチトップ電源に比べると一般的にノイズが多く、そのため出力電圧の変動が大きくなります。目的のアプリケーション用の電源と電圧レールを選択し終わった段階で、ADCの性能に影響を及ぼす電源ノイズを低減するための方法がいくつかあります。
本連載ではシグナルチェーン設計に焦点を当てているので、使用する電源(およびそこからのノイズ寄与)は決まっていると仮定しましょう。電源ノイズの寄与を変えられるような電源設計手法については、ここでは扱いません。その代わりに、以下のコンセプトを通して、このノイズがADCの出力にどう影響するかに注目していきます。
次回(第12回/最終回)では、高精度ADCの評価モジュール(EVM)を用い、今回に述べる理論を実際例に当てはめるとともに、電源ノイズを軽減する手法について説明していきます。
どのアナログシグナルチェーンであっても、結局はバッテリーかACライン電圧のどちらかから電力を得ることになります。このどちらを選んでも、多くの場合は何らかの形の電源調整回路により、システムの他の部分のために電力を調整します。電源に加えて、アクティブおよび、パッシブの調整部品も、ある程度ノイズに寄与し、それらのノイズは予測電圧からの変動として電源の出力に現れます。この変動は、出力における一定したDCシフトのように見えるときもあれば、ある周波数と振幅のAC信号が出力に加わっているように見える場合もあります。
後者はACライン電圧の電源システムに特有のように思われるかもしれませんが、バッテリー駆動システムにもACノイズが含まれることはあります。電源調整部品それ自体も、性能に影響するノイズに寄与することが考えられます。電源調整部品とは、LDO、DC-DCコンバーター、スイッチモード電源(SMPS)などです。すべての電子部品が熱ノイズに関係があるように、LDOも主に熱ノイズに寄与します。熱ノイズに加えて、スイッチングデバイスによる大きな過渡電流が加わります。過渡電流は一般に、公称出力電圧を中心として低周波数リップル(通常100kHzから1MHzの範囲)と高周波数スパイク(100MHz以上)の2つで構成されます。図1に、スイッチングリップル、過渡電流スパイクおよび、熱ノイズをオシロスコープでプロットしたものを示します。
ACノイズは、電源調整部品の他にも、クロックやクロックバッファなど同じ電源を利用する他のスイッチング部品から来ることもあれば、周囲照明やその他の環境要素によっても発生します。
結局のところ、どの電源を使ったとしても、使用するADC電源には、熱ノイズとスイッチングノイズが混在して含まれることになるでしょう。しかし、電源ノイズはADCの外部で発生するため、半導体メーカーが規定できるのは、ADCがこのノイズをどれくらい効果的に除去できるかだけです。この仕様は電源除去(PSR)と呼ばれます。
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