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汎用電源にデジタル化の波(3/4 ページ)

» 2006年03月01日 00時00分 公開
[川村 祥子,EDN Japan]

POLがデジタル化を推進

 なぜ、今デジタル制御化か。POLコンバータが普及し、複数の電源の制御/監視にデジタルが適しているという背景がある。

 TDKプラットホーム開発セクション課長の上松武氏は、デジタル電源の利点に、通信機能によるシステムのパワーマネジメントをまず挙げる。「機能の集積化による部品点数の削減を利点に挙げる人もいるが、減らせる部品はコンデンサや抵抗といった安価な部品ばかり。システム全体を統括するには通信しかない。パワー部と通信部で入力電圧レンジを合わせるためには、低い電圧の通信部に合わせるほかない。デジタル電源にすることでこれらを1チップ化するのは自然の流れだ」。

 加えて、「制御用のDSPが進化し、安価になってきた、などの環境が整ってきた」(村田製作所の森島氏)という事情がある。

 Power-one社のデジタル制御の電源システム「Z-One Digital IBA」(図1)は、2005年12月に中国のSCDMA(synchronous code division multiple access)方式の通信インフラで採用されたのに続き、2006年1月には米国のあるネットワーク機器に採用された。理由は、出力電圧の設定範囲が広いためであり、通信制御ボード上に出力条件が異なる11種類のPOLコンバータを、1種類のPOLコンバータ11個に置き換えられるためである。また、シーケンスとスルーレートの制御、マージン、リアルタイムモニタリングが可能なことも採用理由の一つである。

 同社はIBA(intermediate bus architecture)にターゲットを絞る。複数種類の電源や、電源の機能に複雑な管理をしたいという要求があるからだという。

 電源メーカーの老舗、米Tyco社は、2006年の後半から2007年の前半にフルデジタル電源のサンプルを特定の顧客に出荷する予定だ。予定している製品は、非絶縁型のPOLコンバータ「オースチンリンクスシリーズ」である。

 開発着手は装置側でデジタル化の必要性が発生したことによるという。デジタル制御とすることで期待する機能は、動作状態のモニタリングとコントロールだ。電圧、電流、温度などの監視と、オン/オフ、シーケンス、電圧可変などの制御の実現をねらう。具体的な仕様は未定。必要とされる機能などを調査し、結果を反映する。制御方式や使用するDSPは決まっていない。

 非絶縁型POLコンバータの普及を推進する2団体、DOSA(distributed-power open standards alliance)とPoint Of Load Allianceのデジタル化に対する動向は対照的である。

 Tyco社や米SynQor社が設立し、全9社が加盟しているDOSAでは、現在フルデジタル制御の電源を扱う予定はないという。ただ、Tyco社によると幾つかの会社が集まって開発を進めているという。メンバーなど、詳細は明らかにしていない。DOSAは、基板サイズや端子の配置、端子機能などを標準化した製品を提供する。

 TI社、Artesyn Technologies社、Emerson's Astec Power社、Ericsson Power Modules社、村田製作所が加盟するPoint Of Load Allianceでは、今後フルデジタル制御の製品を扱う予定だという。Point Of Load Allianceに加盟するメーカーは、仕様や基板レイアウト、部品など、全く同じ製品を提供する。

細かい制御で省電力に

 年々電力が増加するハイエンド機器用プロセッサの熱対策に、電源のデジタル制御が欠かせなくなってきている。プロセッサの消費電力は電圧の二乗と、クロック周波数に比例する*3)。2004年6月に発表されたIntel社のプロセッサ「Xeon」は、負荷に応じてクロック周波数を200MHzずつ、動作電圧を12.5mVずつときめ細かく変化させて省電力化し、平均発熱量を抑える。例えば重負荷時は1.4Vで3.6GHz、軽負荷時は1.2V、2.8GHzで動作させる。

 Xeonからの指示を受けて出力電圧を可変するVRM「VRM10.0/10.1/10.2/10.2L」では、6ビットのデジタル信号によって、0.8375Vから1.6Vまでを12.5mV刻みで62種類の出力電圧を設定できることが要求されている。1ステップあたりの時間は5μsである。

 省電力化を狙ったデジタル制御への移行はハイエンド機器の分野だけではない。携帯電話機でも、次機種あたりから本格化するデジタル放送の導入に併せてデジタル電源が求められるという声もある。「動画を見る時の重負荷と、通話時などの軽負荷とをリアルタイムで細かく制御しないと消費電力が膨大になり電池が長時間持たなくなる」と米国の、EDAの新興企業である米Mirabilis Design社のCEO(最高経営責任者)Deepak Shanker氏は見る。負荷に合わせた細かい制御にはデジタル電源が最適だ。

デジタル電源はいろいろ

 そもそも、電源のデジタル制御とは何か。図5にその対比を示す。アナログ制御では、シリーズ電源にせよ、スイッチング電源にせよ、検出した出力の変動を押さえ込むという動作を基本とする。基準電圧をエラーアンプで比較し、両電圧を合わせ込むようなPWM駆動信号を生成することで、変動する出力を目標電圧に合わせる(図5(a))。

 デジタル電源という言葉には、制御回路はアナログ方式だが、通信機能のみをデジタルで機能させるという電源が含まれる場合もある(図5(b))。PMBusなどのデジタル電源制御プロトコルを使い、多数の電源の制御などを行う。

 通信機能を含め、電源回路の制御をデジタルで行なっている電源は、アナログ方式で使うエラーアンプと補償器の代わりに、A-DコンバータとDSPなどの制御プロセッサを使い、出力を制御する*2)(図5(c))。

図5 CD-DCコンバータを例とした回路ブロック図の比較 図5 CD-DCコンバータを例とした回路ブロック図の比較 (a)従来のアナログ制御方式。(b)通信機能のみデジタル制御のアナログ制御方式。(c)通信機能を含むフィードバック系をデジタル処理にした、フルデジタル制御方式

脚注

※3…Intel 技術紹介:パワーマネジメント機能の強化

http://www.intel.com/jp/business/japan/workstation/xeon/overview/speedstep.htm


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