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TIに見る、アナログ・DSPのワンストップ戦略TI Developer Conference 2006から(3/4 ページ)

» 2006年04月01日 00時00分 公開
[津田 建二,EDN]

1チップ携帯プレーヤ向き14mWのCODEC

 携帯型音楽機器に向けたアナログLSIにおいてもワンチップソリューションを実現している。iPod、MP3プレーヤ、DVDオーディオなどに使われる電池動作を基本とするLSIでは低消費電力化がカギとなる。例えば、MP3プレーヤにはデコーダやアンプ、3次元サラウンド、これらのチップやプロセッサを支えるパワーマネジメントのチップなどを使う。

 最近発表したステレオオーディオCODEC「TLV320AIC33」は、消費電力が14mWしかないが、サンプリング周波数48kHzで再生できる。8k〜96kサンプル/秒でS/N比100dBのステレオD-Aコンバータと、8k〜96kサンプル/秒でS/N比92dBのA-Dコンバータ、マイク入力などのミキサー回路、サウンドプロセッサ、PLL、I2CやSPIの制御バス、I2SやDSPとのオーディオバス、さらにはスピーカやヘッドホンを駆動するアンプを1チップに内蔵している。オーディオプロセッサは、3次元サラウンドや低音/高音の強調、イコライザなどの処理を行う。つまりクロック発生器とUSBインターフェース以外はすべて1チップに詰まっている。入出力の数によって3つのバージョンがある。パッケージは、5mm×5mmの80端子BGAか、7mm×7mmの48端子QFNで提供する。

 S/N比が高いのは、ノイズキャンセラを搭載しているためだ。例えば録音できるデジタルカメラに使う場合、レンズをズームするときの音を逆位相で打ち消し合うノイズキャンセラも内蔵しているため、S/N比が高い。

 このステレオCODECは、携帯機器向けに1チップでそのまま使うことができるが、さらに大きな音量で聞きたいという要求に対しても、このチップをCODECとして使い、さらに、A-D/D-AコンバータやUSBインターフェース、メディアプロセッサ、クロック発生器、D級アンプを別に構成することもできる(図3)。つまり拡張性がある。その場合もTI社のチップだけで構成でき、パワーマネジメント系と併せて構成できる。

図3 拡張機能のあるオーディオCODEC 図3 拡張機能のあるオーディオCODEC

サラウンドチップをDSPで実現

 TI社はDSPチップを疎かにしているわけではない。DSPチップを使ったユーザーを基調講演の中で紹介している。TI社ハイパフォーマンス/アナログ製品担当の上級副社長であるGregg Lowe氏は初日の基調講演で、サラウンド・サウンド作りのノウハウを持つ技術開発会社の米SRS Labs社CTO(最高技術責任者)を務めるAlan Kraemer氏を紹介し、サラウンドサウンドをデモンストレーションした。SRS Labs社は、TI社のDSPチップ「TMS320C55x」や「TMS320C67x」などに立体音のアルゴリズムをプログラムしている。

 Kraemer氏によると、サラウンドサウンドの基本アルゴリズムは、HRTF(head related transfer function)技術だという。人間の音の認知が位置に強く関係していることを利用する。右から左へ、上から下への音の移動が、人の頭の上下左右のある一定の範囲であれば、聞こえ方が全く違ってくるのだという。空間的にわずかな部分の範囲に聞こえる音を遅らせたり、上下の角度と共に音を調整したり、あまり高くない周波数の音を拡散させるなどの処理をすることによって仮想的に聞こえる場所が違ってくるという。空間的な場所や音(周波数や大きさ、音の種類など)をモデル化し数式化する。それをDSP等で計算し、広がりのある音を仮想的に作り出す。音楽などの音はいろいろな周波数を持った音で作られているため、人間が音を錯覚する、と同氏は言う。もし単一周波数の音なら、サラウンド処理を施すと人間はどこから発生している音なのかを区別できないという。

 同社の低音強調のTruBass技術も錯覚を利用している。スピーカの再生可能な下限周波数が100Hz程度であっても、低音を強調するアルゴリズムによって本来ならスピーカで再生できない50Hz程度の音が聞こえているような錯覚を起こすのだとしている。

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