SRS社売り上げの最大の地域は日本で、特にフラットパネルテレビへの応用が売り上げに最も貢献している。またFM放送局でもSRS社のサラウンド技術を使った音楽を放送している。
同社のビジネスモデルは、音を処理するアルゴリズムを開発し、そのライセンス供与によって収入を得ることである。半導体メーカーとは協力関係にあり、同社のアルゴリズムを半導体チップに落とし込む作業を協力して行う。ライセンス料はその半導体チップを使う電子機器メーカーが支払う。
フラットパネルテレビ以外の応用として携帯型音楽プレーヤ、携帯電話機、自動車のインフォテインメントなどをこれから強化していく。携帯型音楽プレーヤでは韓国勢のSamsung社やiRiver社などの製品が採用しているが、iPodには使われていない。米Apple社はサードパーティを使わず全て自社開発するからだという。
加えて、自動車や携帯電話機向けを中心に欧州市場にも力を入れていくが、まだ欧州にはオフィスを作っていない。日本市場への力は今後も抜かないとしている。
TI社はDSPやプロセッサチップを搭載した組み込みボードの入出力データを高速に送受信するためのRapidIOインターフェース規格も推進している。TI Developer Conferenceでは、シリアルデータを扱うRapidIOの相互運用性をTI社、米Xilinx社、カナダTundra Semiconductor社、米Freescale Semiconductor社の4社間で初めて確認できた、と4社が共同発表した(図4)。RapidIOは、プロセッサを通さずにさまざまな入力データをさまざまな出力に送出するというスイッチの規格である。高速にデータを切り替えるためレイテンシが少なく、リアルタイムシミュレーションができる。
応用分野としてはかなりハイエンドな、無線通信インフラや高速ネットワーク機器、大容量ストレージ、軍用・産業用システムなどがある。今回、組み込みプロセッサ「PowerQUICC IIIファミリ」をFreescale社、1GHz動作のDSP「TMS320C6455」をTI社、FPGAはSERDESなどの応用で実績を持つXilinx社、そしてRapidIOスイッチをTundra社が担当した。TI社としては、ハイエンドな画像、映像、通信インフラなどの分野にDSPを普及させるための新しいインターフェース規格として、シリアルRapidIOを高く評価している。
2003年に初めて半導体スイッチが市場に出たとき以来、各社各様に試験を行っていただけで、相互に使えるかどうかの確認試験が行われていなかった。RapidIOのようにオープンな規格では相互運用性を実証することが普及に欠かせない。
今回、4社で確認したのはシリアルデータを切り替える実験である。4社のデバイスを搭載したボードを使い、運用出来ることを確認した。さまざまなレベルからなる相互運用性のチェックリスト項目のうち、今回の最初のレベルとしては、デバイスAがあるテストでデバイスBに渡せることを実証した。今後はさらにいろいろなレベルの相互運用性をテストしてゆく。
TI社のトータルソリューション戦略で忘れてはならないのが、標準アナログ、標準ロジックの製品だ。元々、TI社はこの分野に強かった。「この分野は決して死んではいない。むしろ着実に成長し続ける」と同社標準リニア&ロジック副社長のSteve Kelley氏は主張する。技術的あるいは経済的にSoCに集積できない回路や、コアチップの面積に制約があって集積できない回路などに標準品は生き残る。同氏によれば、最近はノート型パソコンや携帯電話機、MP3プレーヤなどの携帯機器での伸びが期待されていると見る。
TI社が力を入れる標準製品の分野は、オペアンプなどの標準リニアIC、ビデオやバスなど信号のスイッチ、レベル変換回路、I2Cインターフェースなどである(図5)。例えば、スイッチなら10:20のDVI-HDMIビデオマルチプレクサ「TS3DV520」や、10/100/1000 Base-T高速LANスイッチ「TS3L500」などの新製品を最近発売している。レベル変換回路ではメモリーカード向けレベル変換IC「SN74AVCA406L」などがある。
では、これらの標準製品は何で差異化するのか。低消費電力とパッケージの小型化、そして鉛フリーでRoHS対応、加えてESD(静電破壊)に強いことが差異化要因となる、とKelley氏は語る。低消費電力化は低消費電力アナログICプロセスを利用、RoHS対応に関しては、全標準リニアICとロジックICの98%以上についてRoHS指令に準拠している。顧客は、従来のはんだに代わる材料として、ウィスカの発生しにくいNiPdAuを好むという。モールド樹脂はBrフリーの難燃性プラスチック、Sbベースの難燃性材料に代えつつある。ESDに対しては、保護ダイオードを内蔵することで破壊に強くしており、15kVもの静電気にも耐える製品を持っているという。
ただし、標準品とはいえ、カスタム化への移行も始まっている。特に、インターフェース用チップにその傾向が出ている。インターフェースはユーザーが定義するため、そのインターフェースチップは差異化の要因になりうる。インターフェースそのものが多様化していることがカスタム化の傾向につながっている。
TI社では、インターフェース関係の新製品を相次いで発売している。その一つ「TPIC9201/9202」は、8出力のリレードライバとマイクロコントローラ用電源、5VのLDO回路を集積している。同じく新製品「LV8153」は直並列インターフェースと64チャンネルのLEDドライバを集積する。「MAX3318」は2.5V動作で460kビット/秒のデータレートを持つRS-232トランシーバである。±15kVのESD保護耐圧を持つ。
ASSP(application specific standard product)は用途に合わせて特化したASICが標準品になったものだが、もともとの標準品がカスタム的になることは、ユーザーごとのLSIを設計することにつながる。そうなると1品種当たり製品の販売数量は標準品よりも少なくなり、TI社の標準品ビジネスはそのビジネスモデルを変えざるを得なくなろう。
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