フォトダイオードとともに用いるトランスインピーダンスアンプ回路では、通常、1MΩのフィードバック抵抗を使用する(図1)。この回路では、出力ノイズ(スペクトルノイズ密度)が常温(300K)において少なくとも130nV/√Hzになる。この値は1MΩの抵抗の熱雑音に起因し、この構成のアンプ回路におけるノイズフロアの理論限界に相当する。実際には、これにオペアンプから発生するノイズが加わって回路全体のノイズ量が決まる。仮に1MΩの抵抗を液体窒素で77.2Kに冷却して使用できるなら、ノイズを65nV/√Hzに低下させることが可能である。これ以外の現実的な方法で、130nV/√Hzのノイズフロアを改善することはできないだろうか。
上の問いに対する1つの解が図2の回路である。この回路全体としてのトランスインピーダンスゲインは1MΩ相当(1V/μA)であり、出力ノイズの実測値はわずか43nV/√Hzに抑えられた。この値は図1のトランスインピーダンスアンプ回路の出力ノイズの1/3にすぎない。
この結果は、初段のトランスインピーダンスゲインを10V/μAとし、その後段の回路で1/10に減衰することによって得られている。後段のトランジスタアンプは電圧増幅器として働き、電源電圧を54Vまでとれるので、出力振幅を十分に大きくすることができる。すなわち、前段の出力としては50Vの振幅を許容でき、回路の最終出力としては5Vの振幅がとれる。10MΩの抵抗によってトランスインピーダンス段のゲインが決まり、この段のノイズフロアは400nV/√Hzとなる。しかし、1/10に減衰した後は、アンプ系としてのゲインが1V/μAに低下し、ノイズフロアも40nV/√Hzに低下する。このノイズフロアがノイズの実測値である43nV/√Hzの支配的な要素だ。このようなノイズレベルを冷却によって実現しようとすると、液体窒素の温度よりも低い33Kが必要になる。
さらに、本稿で紹介した手法には、オペアンプ回路によるオフセット電圧を1/10に改善できるという効果もある。全温度範囲に対する最悪オフセット電圧として、105μVという値が得られる。
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