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フェムトオーダーの電流測定に挑む事例に学ぶその要点とテクニック(4/5 ページ)

» 2007年08月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

 次に行うべきことは、積分回路に用いるコンデンサの選択であった。当初、Grohe氏はこの用途には空気を誘電体とするコンデンサが最適であると考えた。そのため、積分用のコンデンサとして、4インチ×5インチ(約10.2cm×12.7cm)の大きな2枚のプレートを用意した。しかし、大きなコンデンサを使用するのは誤りであることが分かった。面積が大きいと、宇宙線を受けやすくなり、測定の妨げとなるイオンを帯びた電荷が生成されるからだ(図8)。


図8 宇宙線の影響 図8 宇宙線の影響 宇宙線が入力ノードとコンデンサに入射すると、イオンの生成によって測定値が不連続になる。

 そこでGrohe氏は、誘電率は高くしたまま、コンデンサのサイズをできるだけ小さくした。同氏は、同軸ケーブル「RG188」の絶縁がテフロンで実現されていることに気付いた。2インチ(約5.1cm)の同軸ケーブルは、10pFの積分用コンデンサとして利用できる。さらに好都合なことに、外側の網組がシールドとしての役割を果たす。そこで、Grohe氏は、2インチの同軸ケーブルを積分回路のオペアンプに接続した(図9)。PCBからのリーク電流を防ぐためにアンプの入力端子を持ち上げていることにも着目してほしい。

 ラジウム盤が付いた古い腕時計など、イオンを帯びた放射源は、すべて宇宙線と同様の問題を引き起こす恐れがある。Grohe氏は、そうした影響を避けるために、測定を5回行うことにした。また、かけ離れた測定値は除外することにした。

図9 銅でシールドされたボックス2(積分回路用) 図9 銅でシールドされたボックス2(積分回路用) このボックス2は、図7のボックス1のすぐ下に配置される。テフロン同軸ケーブルは積分コンデンサとしても機能する(提供:NationalSemiconductor社)。

 測定を始める前に、積分コンデンサをリセットする必要がある。そのために半導体スイッチを使用するのは現実的ではない。リーク電流の問題があることと、ほとんどのアナログスイッチは5pF〜20pFの静電容量を持つからだ。この容量によりバラクタとしての効果も生じて電圧が変化してしまい、測定は一層困難になる。

 このような問題を最小限に抑えるために、Grohe氏はCoto Technology(米Kearney National社の事業部)のリードリレーを用いた。リレーが開いているときに、コイルが内部のリードとカップリングする可能性があることが分かっていたので、同氏は静電気シールド付きのリレーを使用した。しかし残念なことに、リレーが開くときの電荷の注入によって測定値に大きな不連続性が生じた。リードリレーは、リード部品を1ターンとするトランスとしても働く。それにより、回路の高インピーダンス側に磁界による電圧が引き起こされ、電荷の注入が生じていたのである。静電気シールドでは、この現象による干渉を防ぐことはできなかった。

 リレーはすぐには開かず、また、リレーが開く前に、コイルに印加するパルスによって電流が流れる。Grohe氏は、リレーが稼働するために必要な最小の電圧振幅を評価することにより、問題を最小限に抑えることにした。同氏は、可変出力型3端子レギュレータと抵抗タップを用いて、パルス出力が2.7V〜3.1Vの間になるように制御した。このようにして、積分回路の出力に現われる不連続性を最小化したのである。そして、その微小電流出力をオペアンプで構成したゲイン段に取り込むようにした。

 ゲイン段は、2つの低ノイズアンプで構成される。ここには、「LMV751」や「LM2011」などのチョッパアンプが適している。このゲイン段で増幅した信号を計測器に取り込む。計測器では、データを記録し、実際のテストを実行したときの測定値と校正時の測定値を使って有効な値を得ることができる。Grohe氏は、ワンショット回路を2個用意した(「LS123」を使用)。1つはリレーを駆動し、もう1つは計測器で使うトリガー信号を生成する。

 Grohe氏は、低ノイズ設計では部品への電源配線について十分に考慮しなければならないことを理解していた。そのため、リレーやデジタル回路には、積分回路やDUTと同じ電源を使用しないことにした。同氏は固定出力のレギュレータや可変出力のレギュレータをいくつか用意し、DUTと積分器には±5V、リレー駆動回路には8V、デジタル回路には別の5Vを供給した。

 この回路により、Grohe氏はフェムトオーダーの電流を容易に測定することができた。LMC6001のサンプルをいくつか評価したところ、ほとんどのサンプルの入力電流は5fA未満に抑えられており、仕様よりもかなり良い値を実現できていた。同氏は、このブレッドボード回路を、製造テストの標準プローブカード上に実装する回路の基本として用いた*4)*5)*6)。

 Grohe氏は、通常のフェムトオーダーの電流測定にはこの回路は使用しないという。同氏は、「実験室での評価であれば、米Keithley Instruments社の測定装置(ソースメーター)『2400』を使用したい。ファブが許可してくれていたなら、LMC6001の製造テストにもKeithley社の2400を使用しただろう」と述べた。Grohe氏はKeithley社の製品を高く評価する理由の1つとして、同社がそのウェブサイトで、アト(10の−18乗)オーダーの電流測定に関する優れた記事*7)や、精密な測定に関するハンドブック*8)を無償で提供していることを挙げる。


脚注

※4…Pease, Bob, "What's All This Teflon Stuff, Anyhow?" Feb 14, 1991.

※5…Pease, Bob, "What's All This Femtoampere Stuff, Anyhow?" Sept 2, 1993.

※6…www.national.com/nationaltv.

※7…Daire, Adam, "Counting Electrons: How to measure currents in the attoampere range," Keithley Instruments Inc, September 2005.

※8…www.keithley.com/wb/141.


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