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ウェーハ上でRF信号を測る(2/3 ページ)

» 2007年09月01日 00時00分 公開
[Larry Dangremond(米Cascade Microtech社),EDN]

正確なRF測定のための条件

 正確で再現性の良いRF測定を行う上で特に重要になるのは、RFプローブ、RFケーブル、校正基準デバイス、校正管理ソフトウエアである。以下、それぞれについて順に解説する。

■RFプローブ

 RFプローブはDUTと測定システムを連結/結合するものだ。この用途に向けたRFプローブはかなり前に製品化されていたが、その基本的な特性はほとんど変わっていない。プローブは試験用Sパラメータ信号を再現性良く送出できるよう、反射損失と挿入損失が少なく、接点の抵抗が小さくなければならない。また、デュアルラインのプローブではクロストークが少ないことが必要である。プローブの先端(チップ)における寄生素子(容量、インダクタンス)も極力小さく抑えられていなければならない。ゲイン、反射損失、VSWR(voltage standing wave ratio:電圧定在波比)などの測定においては、こうしたプローブの特性が特に重要である。

 プローブにはDUTのレイアウトにマッチしていることも求められる。通常のプローブは先端に2個または3個の接点を持ち、2接点GS(ground signal)構造あるいは3接点GSG(ground signal ground)構造を成している。デュアルタイプのプローブなどでは、さらに接点の多い特殊な構造を持つものもある。

 図3にプローブをウェーハに接触させたときに形成される寄生素子を示す。図において、黄色の部分がプローブニードルに、青色部分がDUTに対応する。グラウンドはウェーハ裏面となる。寄生素子はウェーハ面上のパッドとプローブニードルの影響を受ける。

図3 RFプローブ周辺に形成される寄生素子 図3 RFプローブ周辺に形成される寄生素子 DC測定でも予期しないリーク抵抗が問題になることがあるが、RF測定では測定系に付随する寄生容量、寄生インダクタンスが常に問題となる。

 寄生素子は接触部分となるパッドのサイズの影響を受けるが、このサイズは校正基準デバイスのパッドのそれとは異なることがある。こうした寄生素子を最小化するには、適切に設計されたプローブが必要である。目標とすべきは、寄生素子を小さくするとともに再現性を良くすることだ。

図4 プローブ構造によるフィールドの違い 図4 プローブ構造によるフィールドの違い GS構造(a)は、グラウンド側のフィールドのすそが大きく広がるため、10GHz以上の高周波の測定には適していない。GSG構造(b)は、GS構造と比べるとフィールドの広がりが小さく、より高周波の測定に適している。マイクロストリップ構造(c)ではフィールドは狭く、DUTに対してシールドされ、結合やクロストークが少ない。このタイプであれば、ほかのタイプよりも安定した測定が行える。

 図4に、一般的なプローブチップについて、チップ周辺に生成される電界(フィールド)がチップの構造によってどのように異なるのかを示した。比較したのは2接点GS構造、3接点GSG構造、マイクロストリップ構造の3種類である。

 まず、図4(a)が2接点GS構造の場合である。生成されるフィールドは、チップから離れたウェーハ面位置、あるいはウェーハチャックなどに向かって広がり、すそを引く。このように、GS構造ではフィールドをコントロールできないため、10GHzを超える高周波域では使用すべきではない。

 図4(b)は、GSGプローブでの様子を表している。この場合、プローブチップ自体によってグラウンドパスがコントロールされるので、生成されるフィールドは狭い範囲に集中し、DUTの両側でほぼ均一になる。従って、GS構造よりも高周波まで使用可能である。

 図4(c)は最新型のプローブであり、プローブニードルが同一面上で(コプラナ的に)マイクロストリップラインにつながる構造を成している。プローブチップは薄膜であり、その薄膜上に形成されたマイクロストリップラインは通常のコプラナ構造に比較してフィールドがより局在化する。そのため、フィールドの影響が少なく抑えられ、RF測定の精度が向上する。さらに、マイクロストリップ構造はフィールドからDUTへの影響も少なく、クロストークも最小になるという特徴を備える。この特徴から、多数のプローブを高密度に集積することが可能になり、その結果、同時に多数のテストを行ったり、より高周波でのテストを行ったりすることが可能になる。

■RFケーブル

 上述したようにプローブはキーとなる要素であるが、RFケーブルの設計、構造、品質も同様に重要である。ケーブルはどのようなものでもよいと考えて費用を出し惜しむのは、RF試験においては決して賢明なことではない。

 ケーブルは損失が少なく柔軟性に富んでいる必要がある。また、曲げを戻したときに電気的特性が正しく回復しなければならない。さらに、高温での試験もよく行われるため、使用温度範囲内で位相特性に変化が少ないことも重要である。低品質のケーブルではわずか数度の温度変化によって顕著な電気長変化(位相変化)が生じることがある。このような問題を避けるためには、使用条件に合致し、特性が安定しているケーブルを使用する必要がある。

 それとともに、ケーブルは清浄に保ち、不要な力を掛けないようにしなければならない。ケーブル類は長期間にわたって実験室に張り巡らされていたり、素性が不明になってしまったりすることが多い。ケーブル自体は清浄でも、コネクタに汚れや傷があったり、過剰なトルクで締め付けられていたりすることもある。あるユーザーは、低価格なケーブルを使いこなそうとして、実験室内の機材、ドラフトチャンバ、エアコンなどからの振動の影響を防ぐために、ケーブルの至るところを固定するといった苦労をしている。そうした注意を払っても、低品質のケーブルでは、例えば、たまたま誰かが直前にひじを載せてケーブルを曲げたために、電気的特性が正しく得られないといったことが起きる。こうした予期しない誤差要因が、校正時にも生じ得るのである。最良の道は、ケーブルにも相応の費用をかけ、試験の条件/環境に適合するものを入手するとともに、確立された手法でメンテナンスを行うことだ。

■校正基準デバイス

 先述したように、RF測定の正確さは校正によって決まる。校正(すなわちベクトル誤差補正)は、既知の特性値を有する校正基準デバイス(あるいはインピーダンス基準)を正確に測定することから始まる。この測定結果を基に、実際のサンプル(DUT)での測定結果に含まれる誤差要因を識別して除去するのだ。

 校正基準デバイスは、通常、ショート(short)、オープン(open)、ロード(load)、スルー(through delay)に対応する。ショートはプローブ‐チップ間を共通の導体で短絡するものだ。オープンとしては、プローブチップを開放にしておくエアプローブ法(probe in the air method)が標準的に用いられる。ロードには正確にトリミングされた50Ωの抵抗を使用する。スルーには既知の遅延量(通常は1ps)を有する短い伝送ラインが使用される。

 ウェーハ上での校正基準デバイスに加え、専用基板に搭載されたインピーダンス基準を使用すると、プローブの校正を計測プロセスの一部に組み込むことができるので便利である。

■校正管理ソフトウエア

 正確な校正には、校正/検査システムを管理するソフトウエア(校正管理ソフトウエア)が必要である。手元にある試験機材を用いてRF試験を始めたばかりであったり、マルチポート測定や差動測定といった新しい条件で試験を始めたりする場合もあるだろうが、いずれにしても、校正というのは、複雑かつ面倒であって、面白みも少なくエラーの発生しやすいものだ。校正管理ソフトウエアはこうした問題を解決してくれる。これを使用すると、校正の過程全体が自動化される。また、システムをセットアップするためのガイダンスの表示や、システムの構成要素のトラッキング、校正プロセスを理解するための支援機能などが得られる。校正管理ソフトウエアに含まれるウィザードやチュートリアルの機能を活用することにより、測定に対する理解が容易になり、セットアップや測定に要する時間を短縮できる。さらには、測定シーケンスの最適化も容易になる。

 校正管理ソフトウエアを使えば、例えば、プローブの校正時のさまざまな電気的印加条件に対する応答や測定値を記録しておき、それを再現することができる。その結果、セットアップ時にオペレータが入力条件を誤るといった単純なミスがなくなる。この種の間違いが校正時に発生し、それに気付かずに先に進むと、不正確なデータが長期にわたって積み上げられてしまう。ケーブルに対する投資と同様に、校正管理ソフトウエアに対する投資もRF測定システムの価値を大いに高める。

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