NTCサーミスタによる突入電流を制限する方法に代わる手法を紹介する。電源ラインに挿入した抵抗を切り替え制御することにより、突入電流を制限するというものだ。
負荷に200W以上もの電力を供給する電源回路には、突入電流を制限する機能が必要となる。この機能がない場合、突入電流は数百アンペアにも達し、入力ラインの整流器の故障、ヒューズや入力フィルタ用インダクタの溶断、あるいは力率改善(PFC:power factor correction)フィルタ用のコンデンサの破損などを引き起こす。
突入電流の制限方法としては、NTCサーミスタ(負の温度係数を持つサーミスタ)を入力ラインに挿入するという簡単な方法がある。この種のサーミスタは温度が下がると抵抗値が大きくなり、温度が上がると抵抗値が小さくなる。電源の投入時には高抵抗なので突入電流が制限され、しばらく時間がたつと、電流によって温度が上昇して抵抗値が下がり、定常動作の状態に入るという動きになる。
しかしながら、NTCサーミスタの抵抗値は、電源が定常動作に入った後も相当に高い。そのため、損失が大きいという問題が生じる。定常動作時の抵抗値を下げるには、かなり高い温度にする必要があるが、そのような条件を実現しようとすると、もともと大きな消費電力によって高くなる電源筐体の温度をさらに上昇させることになる。
本稿では上述したNTCサーミスタによる方法に代わる手法を紹介する。それは、電源ラインに挿入した抵抗を切り替え制御することにより、突入電流を制限するというものだ。この制限機能は、PFC回路で用いる電解コンデンサがフルに充電されるまでの間だけ働くので、定常動作時の消費電力が増大することはない。つまり、突入電流を効果的に制限できるとともに、余分な電力を消費しないので発熱源にもならない。抵抗の切り替えは機械式リレー、あるいは光学式絶縁半導体リレーにより行う。
ここで問題になるのは、PFC回路のコンデンサが十分に充電されたかどうかを判定する方法である。汎用的な設計の電源では、AC入力電圧がある程度の範囲で変動することが許容されている。そのため、電圧のレベルによって完全に充電されたかどうかを明確に判定するのは難しい。加えて、突入電流の制限回路は、電源回路内部の補助電源やその他の回路の起動を遅らせるとともに、PFC回路のコンデンサが設定レベルまで十分に充電されるようにしなければならない。
こうした課題を解決する最も簡単な方法は、PFC回路のコンデンサの電圧ではなく、突入電流そのものを計測することである。そのための回路を用意して突入電流を計測し、その変化の状況から突入電流が収束したことを判断するのだ。突入電流のレベルが事前に設定した閾(しきい)値まで減少したら、補助電源やその他の回路部分を起動する。このような突入電流の制御方法であれば、電源の動作開始条件を設定でき、その動作開始条件をAC入力電圧とは無関係に決めることが可能になる。
図1に示したのは、一般的なPFC回路に抵抗切り替え式の突入電流制限回路を付加した例である。突入電流を検出する部分は巻線抵抗R1とディプレッション型MOS FETのQ1から構成され、Q1と抵抗R2が電流源となって抵抗R3、R4に電流を流す。抵抗R1による電圧降下は数ボルトから数百ボルトという広範囲で変化するが、この間における電流源からの電流は少ないので、補助電源が動作しない状態に保持できるとともに、突入電流の制限機能に影響することもない。
突入電流が十分に減衰すると、R1両端の電圧差が小さくなり、Q1が電流源として動作しなくなる。Q1から電流が流れなくなると補助電源がオンになり、これによりリレーS1が閉となってR1が短絡する。その結果、電源としての動作がスタートする。抵抗R2によって補助電源を非動作(ディセーブル)に保持しつつ、PFC回路のコンデンサを完全に充電できる電流値が決まる。
S1としては、12Vで動作する機械式リレーを用いる。例えばオムロンの「G2RL-1」*1)などのように、接触抵抗が小さいものがよい。機械式リレーの代わりにMOS FETあるいは光学式絶縁半導体リレー(例えばイタリアCarlo Gavazzi社の「RP1A48D5」*2)など)を使用することもできるが、その場合には出力素子における電圧降下と電力消費について考慮する必要がある。
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