最新の計装アンプ製品は、外付け抵抗を用いることなく使用できるようになっている。その種の製品では、電圧の利得(ゲイン)をデジタル的に設定できる。最近では、この手法により利得を1〜1000の範囲のいくつかの整数値に設定できるようになっているものもある。しかし、利得の値として3が設定できる製品は少ない。
筆者は以前、本コーナーにおいて、外付け抵抗を使うことなく利得3を実現するオペアンプ回路を紹介したが*1)、それは計装アンプを対象としたものではなかった。また、その方法にはオートゼロ機能も含まれていなかったが、この機能は振幅の小さい信号を正確に増幅したい用途では必須のものである。こうした観点から、本稿では、1mVオーダーのオートゼロ機能を備えた計装アンプを用い、3または10の利得設定を可能にする計装アンプの使用法を紹介する(図1)。後述するが、この切り替えは、1本の制御端子によって行える。
図1の回路で利得3を実現する上でベースとしているのは、2+1=3という単純な計算である。この回路では、米Analog Devices社の計装アンプ「AD8231」を2個使用している。この製品はオートゼロ機能を備えており、利得は1〜128の範囲の2のべき乗値にデジタル的に設定できる*2)。
図1の回路において、IC1は利得2に、IC2は利得1に初期設定する。また、IC1とIC2の反転/非反転入力端子同士をそれぞれ外部配線で接続しておく。IC2の出力はIC1の基準電圧入力端子REFに接続する。IC2の基準電圧入力端子REFは、ユーザーが必要に応じて使用する基準電圧入力端子とする(図では、0Vを接続している)。以上の接続により、出力電圧VOUTは以下の式で表される値となる。
VOUT | =VOUT1+VREF1=VOUT1+VOUT2 |
---|---|
=2×ΔVIN+ΔVIN=3×ΔVIN
ここで、VOUT1、VOUT2は、それぞれIC1、IC2の出力電圧、VREF1はIC1のREF端子への入力電圧(すなわち、IC2の出力電圧)、ΔVINは差動入力電圧である。
同様に、ゲイン10は8+2=10の計算で実現する。この場合、IC1の利得を8に、IC2の利得を2に初期設定する。AD8231のデータシートに記載されているゲイン設定法(ゲイン設定端子A0〜A2を使用する)によれば、ゲイン3の場合と同10の場合とでは、IC1のA1端子とIC2のA0端子の設定が反転するだけで、その他の端子は同じ設定でよい。従って、図のSELをハイ/ローに設定することにより、利得3と同10に交互に切り替えるといった使い方ができる。
※1…『外付け抵抗なしでゲイン3の増幅回路を構成』(Marian Stofka、EDN Japan 2006年11月号、p.113)
※2…"Zero Drift, Digitally Programmable Instrumentation Amplifier, AD8231," Analog Devices Inc, 2007
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