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ジッタと位相ノイズの測定にPLLの分周器を活用目指せ“パーフェクトタイミング”(3/3 ページ)

» 2012年02月22日 06時00分 公開
[Howell Mitchell(Silicon Laboratories),EDN]
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エイリアシングの影響を考慮する

 クロック周波数の低下に伴ってrmsジッタを増加させる、もう1つの要因がエイリアシング(折り返し)である。2分周するごとに、位相ノイズカーブの高位側の半分が、分周後の低クロック周波数の位相ノイズカーブにエイリアシングされてしまう。位相ノイズは通常、クロック周波数に近づく(オフセット周波数が小さい)ほど大きくなり、クロック周波数から離れる(オフセットが大きくなる)に従って減衰していく。エイリアシングされる位相ノイズは高位(オフセットが大きい)側なので、比較的小さいといえる。しかし、分周比が高い場合は、その影響は累積的に大きくなってしまう。例えば、図6において1280MHzと640MHzのカーブの縦軸方向の差分は、オフセット周波数の全範囲にわたって6dB一定である。従って、表2に示した1280MHzと640MHzのrmsジッタ値の差は、測定器のノイズフロアではなく、全てエイリアシングに起因するものだと考えられる。

 下掲のスペクトラムと位相ノイズカーブは、エイリアシングを示している。これらの例では、信号にAMを掛けてエイリアシングを発生させており、実際のアプリケーションで起きる現象を捉えたものではない。図9図10は、それぞれ3GHzのクロック信号のスペクトラムと位相ノイズカーブだ。図9では、3GHzから周波数が400MHz上側と下側ずつ離れた位置に対称のスプリアス(不要成分)が確認できる。図10は同じ信号のSSB位相ノイズカーブであり、3GHzのキャリア周波数からオフセットが400MHzの位置に1つのスプリアスとして表れている。

図9 図9 クロック信号の周波数(キャリア周波数)から周波数が上下に400MHz離れた2つの位置に、対称にスプリアスが発生している。
図10 図10 上図と同じクロック信号の位相ノイズカーブである。やはりキャリアから400MHz離れた位置にスプリアスが見える。両側波帯が対称でれば、このスプリアスは上図における両側波帯の影響をまとめたものに相当する。

 この3GHzの信号を4分周して750MHzを生成した結果が図11図12である。4分周の結果、もともと2.6GHzと3.4GHzにあったスプリアスがエイリアシングされ、側波帯のスプリアスとして350MHzに表れている。ここで、分周前にスプリアスがあった2.6GHzがキャリア周波数である3GHzの400MHzオフセットに相当するのと同じく、350MHzは750MHzのキャリア周波数に対する400MHzオフセットに相当する。

図11 図11 もともとの3GHzの信号を4分周し、750MHzに落としたときのスペクトラムである。もともと2.6GHzと3.4GHzにあったスプリアスがエイリアシングされ、側波帯のスプリアスとして350MHzに表れている。
図12 図12 750MHzのキャリア周波数から400MHz離れた350MHzの位置にスプリアスが見える。このオフセットは、図10における3GHzのキャリア周波数と2.6GHzのスプリアスの間のオフセットと変わらない。

 さらに、750MHzの信号を2分周して375MHzに落としたときのスペクトラムが図13である。25MHzにあるスプリアスは、図11における350MHzのスプリアスがエイリアシングされたものだ。すなわち、375MHz−350MHz=25MHzである。

図13 図13 ここで25MHzにあるスプリアスは、図11における350MHzのスプリアスがエイリアシングされたものだ。

 このように、周波数が低い低ジッタのクロック信号を測定する場合は、測定器のノイズフロアが測定限界を決める要因になる可能性がある。従って通常は、分周比を低く設定することで、高いクロック周波数でジッタを測定する。ただしこの手法を適用する際には注意が必要だ。周波数の高いジッタ成分が存在していても、分周比が高ければエイリアシングによって低い周波数に落ち込んでくるのに対し、分周比が低いとそれが無くなってしまうので、高周波のジッタを無視してしまうことになる。こうして求めたrmsジッタの値は見かけ上、低くなるかもしれないが、それは真値とは限らない。従ってこの手法は、オフセット周波数の大きい領域の位相ノイズが比較的小さい用途に限って適用すべきである。

 周波数が低いクロック信号でも、ジッタがそれなりに大きい場合であれば、時間領域の測定器を利用するとよい。クロック周波数がどれほど低くても、そのままの周波数で直接、測定を実施できるからだ。

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