リニアテクノロジーは、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などに搭載される大容量二次電池の電圧を監視するバッテリモニターICの第3世代品「LTC6804」を発表した。新製品の投入により、リチウムイオン電池を搭載するEVやHEVに用いられる電圧監視IC市場で75%というシェア目標が視野に入ってきたという。
リニアテクノロジーは2012年10月31日、東京都内で会見を開き、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などに搭載される大容量二次電池の電圧を監視するバッテリモニターICの新製品「LTC6804」を発表した。2008年9月発表の「LTC6802」(関連記事1)、2011年2月発表の「LTC6803」(関連記事2)に次ぐ第3世代の製品である。従来品と比べて電圧の測定誤差が約6分の1、測定時間が約10分の1に低減されており、自動車向け機能安全規格であるISO 26262に対応可能な冗長性も有している。2013年1月から量産を開始する。1000個購入時の参考単価は10.95米ドル。
同社社長の望月靖志氏は、「電圧監視ICは、EVやHEVだけでなく、蓄電システムや産業用機器向けの無停電電源などに搭載される大容量二次電池を安全かつ効率良く利用する上で必須のものだ。当社の電圧監視ICは、競合他社に先駆けて製品投入したこともあり、量産販売されているEVやHEVだけでなく産業用機器向けの蓄電システムなどにも採用されている。LTC6802の発表当時から、リチウムイオン電池を搭載するEVやHEVに用いられる電圧監視ICの市場で75%というシェア目標を掲げてきたが、大幅に性能を高めたLTC6804の投入によって、現時点の50%というシェアを一気に目標の75%まで高められると確信している」と強調する。
LTC6804は、従来品のLTC6802やLTC6803と同じく、最大で12個直列に接続された電池セルの電圧を、各セル個別に計測する機能を備えている。ただし、第2世代品であるLTC6803がLTC6802をベースに設計されたのに対して、LTC6804は設計を一新しており、大幅な性能向上を実現している。
性能向上のポイントは大まかに分けて5つある。まず1つ目は、埋め込みツェナー方式の基準電圧源の採用によって、電圧の計測誤差を大幅に低減したことである。LTC6802やLTC6803の電圧の計測誤差は±0.25%以内だったが、LTC6804は±0.04%以内となっている。例えば、リチウムイオン電池の定格電圧を4Vとすれば、LTC6804の測定誤差は±1.6mV以内に収まるわけだ。
この電圧計測誤差の低減を実現するために採用したのが、埋め込みツェナー方式の基準電圧源である。米国本社のLinear Technologyでシグナルコンディショニング製品マーケティング・マネージャを務めるBrian Black氏は、「電圧監視ICで発生する計測誤差は、初期精度や温度ドリフト、温度ヒステリシス、長期安定性など基準電圧源にかかわる要因が50%以上を占める。これは、現在広く利用されているバンドギャップ方式の基準電圧源が、湿度や温度の変化、機械的なストレスに弱く、経年変化も起こしやすいからだ。LTC6804は、バンドギャップ方式より製造プロセスが複雑ではあるものの、先述した短所がない埋め込みツェナー方式の基準電圧源を採用することにより、電圧計測誤差の原因を取り払った」と説明する。実際に、温度ドリフトは3ppm/℃、温度ヒステリシスは260℃でのリフロー実装後で100ppmと小さい。長期安定性も25ppm/√khrとなっており、15年連続で使用できるという。
電池監視ICの電圧計測誤差が大きいと、EVやHEVの電池容量を増やす必要があり、その分車両価格も高くなるという問題がある。例えば、電池セルの電圧計測誤差が±10mVあったとすると、電池セルの充電状態(SOC:State of Charge)では±2.5%という誤差が発生する。電池セルのSOCの範囲を20〜80%(理論容量は60%)に収めるように設計している場合、この±2.5%という計測誤差によって、SOCの範囲は22.5〜77.5%(理論容量は55%)の範囲で使用するように制限をかけることになる。
つまり、計測誤差によってSOC5%分の電池容量が失われるのだ。この失われたSOC5%分の電池容量を補うには、搭載する二次電池の容量を9.1%増やす必要がある。もし、二次電池を搭載する車両に必要な容量が5kWhで、二次電池の価格が1kWh当たり600米ドルと仮定すると、600米ドル×5kWh×9.1%=273米ドルの追加コストが発生することになる。「電圧計測誤差の小さいLTC6804を使えば、このような追加コストの発生を最小限に抑えられる」(Black氏)という。
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