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ダイナミック・レンジ60dBの音量計を実現Design Ideas 計測とテスト

60dBのダイナミック・レンジを持つ音量計を実現するアイデアを紹介する。

» 2014年03月11日 15時10分 公開
[Jon Munson,Linear Technology]

 オーディオ用音量計はピーク値を基準にしたオーディオ振幅を表示するので、録音レベルの正確な設定やアンプの動作状況の表示に役立つ。ダイオードとコンデンサを使った簡単な回路を用いれば、ピーク値に重み付けした古典的な音量計の表示を実現できるが、回路の応答は通常約23dBという表示可能なダイナミック・レンジに制限される。しかもメーターには指針の慣性や衝撃波の理論に基づく誤差の問題が付随する。最新の表示装置では慣性の問題を点灯素子アレイによるバーグラフを使うことで除去しており、応答および精度特性面の欠点はすべて信号処理の領域に移ってきている。DSP技術と応用数学を用いればファームウエアにメーターの機能を盛り込めるが、この手法は予備のDSP機能があらかじめ装置に含まれていないと、かなり高価なものになる。

 安価なアナログ・メーターの弱点は、依然としてそのピーク・ホールド素子、すなわち、コンデンサにある。コンデンサには、大きな信号による迅速な充電と、小さな信号による正確な充電という、相反する2つの特性が求められる。さらに、全波整流およびピーク・ホールド機能に対するダイオードの非理想的な特性も、アナログ音量計のダイナミック・レンジを制限する。表示装置のダイナミック・レンジ20dBを保持して、民生用電子機器に典型的な40dBの範囲で可変な信号レベルをモニターするには、60dB程度のダイナミック・レンジの回路が必要になる。

 信号レベルが低い場合、広いダイナミック・レンジに対して所望の精度とスルーレートを同時に提供できない。図1の回路は、シンプルな構成であるが、60dBを超えるダイナミック・レンジにわたって高い精度を提供し、しかも高品質の表示装置において求められる俊敏な立ち上がりおよびゆるやかな戻りを実現する。

図1 インダクタ補償型の音量計

 この回路の心臓部はLinear Technology社のコンパレータIC2「LT1011」で、入力信号の振幅とピーク検出出力の差をモニターする。また、4.7μFのホールド・コンデンサC6の充電量が少ない場合、充電電流を供給する。残念ながら、コンパレータと非線形アンプによって生じる入力から出力までの遅延が、出力パルス幅の最小値を決めている。もし、大きな入力バーストを追跡するためにホールド・コンデンサが迅速に充電されるとすると、最小の充電ステップは小さな信号のレベルを大きく超えるはずであり、ダイナミック・レンジが制限される。

 インダクタL1は、適応可変の充電電流源を提供し、このコンデンサ応答の問題を解決する。10mHのインダクタの追加により、コンパレータが狭いパルスを生成するときに最大電流レートを制限し、最小充電振幅ステップを1mV以下にする。より広い充電パルスに対しては、電流を高いレベルに自動的にランプ・アップして、高いスルーレートを提供する。最小充電ステップは本質的に信号ステップ・サイズに比例し、60dBの信号範囲にわたって1dBよりも良好な相対精度を保証する。メーターのスケール・ファクタで−59dBの信号レベルは13mVの入力に対応する。また、0dBはピーク値2Vに対応し、通常のゲイン20のオーディオ・パワーアンプによって、負荷8Ωに100Wrms、すなわち40Vのピーク出力を提供する場合に必要な入力レベルに対応する。

 この回路にはさらに、Linear Technology社の高精度デュアル・オペアンプ「LT1469」による2つのオペアンプ段が含まれている。初段のIC1Aは、6倍の利得を提供しており2Vの入力ピークから12Vの出力を生成する。2番目のオペアンプ段IC1Bは高精度の反転半波整流器を形成している。IC1AとIC1Bの出力、C6にかかる正のピーク検出電圧による電圧をコンパレータIC2に入力し、ゼロ交差の閾(しきい)値を提供する。その入力が0Vより下がるときは、IC2の出力はQ1をオンにし、C6にかかる電圧が増幅されたオーディオ電圧に達するか若干超えるまで、C6に電荷を供給する。R8とC4で構成される帰還回路は最適な音量計測のための放電を実行する。


Design Ideas〜回路設計アイデア集

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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。

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