今回は、デジタルオーディオで誤解されている幾つかの基本を取り上げます。デジタルオーディオを表現する「量子化分解能」や「サンプリング周波数」の意味や、高分解能とハイサンプリングがもたらす効果、オーディオ再生システムの中核を成すD-A変換部の出力スペクトルに含まれる各成分について、理解を深められるはずです。
本連載では、身の回りの多くのオーディオ機器に採用されている「デジタルオーディオ」に焦点を当て、オーディオシステムを学び、開発する上で押さえておくべきポイントを解説します。アナログオーディオとデジタルオーディオの違いや概略を解説した第1回に続き、第2回ではデジタルオーディオで誤解されている幾つかの基本を取り上げます。
デジタルオーディオを表現する「量子化分解能」や「サンプリング周波数」の意味や、高分解能とハイサンプリングがもたらす効果、オーディオ再生システムの中核を成すD-A変換部の出力スペクトルに含まれる各成分について、理解を深められるはずです。(EDN Japan 編集部)
デジタルオーディオにおけるPCM信号の基本要素は本連載の第1回に簡単に触れた通り、「量子化分解能」と「サンプリング周波数」の2つである。これらにより、PCM信号の基本理論特性(デジタル理論精度)が決定される。このデジタル理論精度はデジタルオーディオの基本であるが、意味するところは実に重要である。
図1に正弦波信号を例にした量子化のイメージ図を示す。量子化分解能は有限であるので、元のアナログ信号とデジタル変換されたデジタル値との間には、量子化誤差(Eq)が存在する。このEqは、有限なデジタル変換値の最小値である「LSB(Least Significant Bit)値」と直流成分は同じであり、Eqは下式で求められる。
ここで、Vsは「アナログフルスケール値」、Mは「量子化ビット数」である。確率分布が一定であると仮定した上で、正弦波信号の量子化雑音(Nq)は下式で求められる。これは、量子化誤差Eqの正弦波に対する分布を積分計算したものである。
Nqは正弦波信号の量子化誤差、または量子化雑音、量子化ひずみなどと表現されるが定義は同じである。この量子化誤差はデジタル値が表現できる最小単位値を意味するので、フルスケール信号との比が理論ダイナミックレンジを決めることになる。ここで、理論ダイナミックレンジをDRとすれば、DRは下式で求めることができる。これは、正弦波信号と正弦波に対応して発生する量子化雑音との比で求められ、一般的な対数(dB)単位としたものである。
Mは量子化ビット数を表す。オーディオCD(CDDA)ではM=16ビット、DVDではM=24ビットなので、ダイナミックレンジDRはそれぞれ、以下の通り計算できる。
ここで混同してはならないのは、この値は「デジタル領域での理論値」であって、アナログ特性とは異なる点である。また、量子化雑音(Nq)は信号出力時に含まれる理論誤差であり、無信号時には図1で示したような雑音波形が出力されるわけではない。参考までに、従来のアナログソースのダイナミックレンジ(信号対雑音比として)は高精度・高性能グレードでも70〜80dB程度である。
デジタルオーディオを表現する2大要素のもう1つ、「サンプリングレート」に話題を移そう。時間領域のデジタルオーディオを周波数領域で表現するには、サンプリング定理により、元信号最大周波数(周波数帯域)の2倍以上のサンプリング周波数が必要である。逆に表現すれば、サンプリング周波数(fs)の1/2の周波数が再現可能な最高周波数(帯域)となる。既存のPCM信号フォーマットでは以下の通りサンプリング周波数が規格化されている。
サンプリング・レートfs(Hz)でサンプリングされたPCM信号は、信号周波数をfaとすれば、(fs−fa)と(fs+fa)のサンプリング・スペクトラムで構成される(図2)。これは、アナログオーディオには無いデジタルオーディオ特有の現象である。D-A変換において、このサンプリング・スペクトラムの取り扱いがシステム設計の観点で重要になるので覚えておいてほしい。
ダイナミックレンジと同様に、サンプリング周波数で決定される理論周波数帯域もデジタル領域の理論値であり、実際のPCM信号に理論帯域までの信号成分が含まれているかは別の問題である。実際のデジタルオーディオの再生システムでは、D-AコンバーターICに内蔵されているオーバーサンプリング・デジタルフィルタの周波数特性とアナログ部の低域通過フィルタ(ポストLPF)特性を含めた総合的なシステムとして、最終的な周波数特性が決定される。
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