複雑なオーディオ信号波形から振幅に関する情報を取り出すことができる包絡線フォロワー回路で、信号の急激な減衰にも対応できる回路を紹介する。【修正あり】
包絡線フォロワー回路は、複雑なオーディオ信号波形から振幅に関する情報を取り出すことができる。包絡線フォロワー回路の出力は直流電圧である。この出力を使って、電圧制御アンプや電圧制御フィルターなどの非直線性回路を駆動するケースが多い。
入力信号の変化に対する高速応答性と出力信号の残留リップルの大きさは、トレード・オフの関係にある。システムの応答が遅いと、リップルは低いが、包絡線の形状はひずんでしまう。一方、システムの応答が速いと、リップル成分が高くなることで、非直線性回路を変調駆動してしまう。この結果、雑音の大きな製品ができてしまう。
ギターなどの楽器では、特別な問題が発生する。これらの楽器では、アタック(楽器の出だし)の時間が数ミリ秒であるのに対して、信号の減衰時間が非常に長い。演奏者は、鳴り終わった弦をミュート(消音)することで、この指数関数的な減衰を一気に止めている。こうした楽器の信号波形は非対称であることが多い。さらに強度ゼロの線を何度も横切る。基本波が存在する周波数帯域は、およそ80Hz〜1.5kHzである。従来のピーク検出回路は、全波整流ブリッジと外形寸法が大きい平均化フィルターで構成していた。フィルターの時定数を大きくしてリップルを減らすと、信号の振幅変化に追従できなくなってしまっていた。ピーク検出回路は、急激に変化するアタックの信号と指数関数的に減衰する信号には対応できたが、弦をミュートしたときの急激な減衰には対応できなかった。
【訂正:2023年11月9日11時25分 当初、「基本波が存在する周波数帯域は、およそ80kHz〜1.5kHz」としておりましたが、正しくは「80Hz〜1.5kHz」です。お詫びして訂正致します。】
図1は、アタックへの高速応答と低リップルを実現すると共に、信号の急激な減衰にも対応できる回路である。
フィルターの時定数は小さい。この回路は、3段のピーク保持回路を並列に接続した。順番にリセットがかかる構成である。信号は3段のピーク保持回路すべてに入力する。ある段のピーク保持回路がリセット状態になっても、残りの2段のピーク保持回路は直前のピーク電圧値を保持している。
3段のピーク保持回路から出力される電圧の最大値をダイオード群を使って選択する。最大値を出力していたピーク保持回路がリセット状態になると、小型のRCフィルターがステップ応答性を平滑化する。
3段のピーク保持回路のいずれかは、信号が入力されている期間にわたり、ピーク電圧値を保持しなければならない。これを保証するために、リセット信号のクロック周期は、最小入力周波数の半周期よりもわずかに長くなるように設定した。
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