データの損失を防ぐため、最新のデジタルシステムには停電時にバックアップを行う機能が欠かせない。その際に重要なのが、入力がなくても出力が維持される時間(ホールドアップ時間)だ。今回の記事では、3つの簡単な電源ホールドアップ解決策を紹介する。
供給電源の停電時に重要なデータをバックアップすることは、最新のデジタルシステムにとって重要な機能です。組み込みシステムがクリーンな無停電電源に依存する遠距離通信用、産業用、および自動車用アプリケーションでは、データの損失が懸念材料です。停電が突然発生すると、HDやフラッシュメモリの読み書き動作時にデータが破壊される場合があります。データ記憶装置は、車両の保守、トラブルシューティング、修繕作業を目的とする組み込みシステム内で幅広く使用されています。複雑な産業用金属機械加工機器では、電源の遮断後に複数の工具の位置と状態を保存して、電源が復旧したときに機器が故障しないようにすることが極めて重要です。
これまで、バックアップ電源の設計者は、高電圧電源の存在と、昇圧力率補正(PFC)回路のバルク容量を頼りにしてきました。この従来の手法では、停電時に、必要なホールドアップ時間にわたって下流のコンバーターが限界負荷をサポートするには、350〜400VのPFC出力電圧と極めて大型のバルク容量の組み合わせによって得られるエネルギーで十分です。ホールドアップ時間は、単に、システムがバックアップ動作を安全に遂行するのに必要な時間です。
問題は、かなりの数の最新電子機器(例:自動車用機器)がAC-DCコンバーターを必要としないことです。また、PFCの本質そのものが劇的に変化しました。低消費電力のシステムや分散システムでは、昇圧/降圧コンバーターのペアが、実装面積の小さな絶縁型フライバックコンバーターに置き換わりました。これらの環境では、多くの場合、低電圧電源がバックアップデバイスにとって供給可能な唯一の電源になります。
全てのバッテリー不要バックアップソリューションは、コンデンサーがエネルギーWを貯蔵する能力に基づいています。
ここで、Cは容量、VMAXおよびVMINはそれぞれコンデンサーの最大電圧および最小電圧、VOUTおよびIOUTは負荷電圧および負荷電流、THはホールドアップ時間、つまり停電後に電源が出力電圧をレギュレーション状態に維持できる時間です。
低電圧システムでホールドアップ時間の要件を満たすため、設計者は、(多くの場合はスーパーコンデンサーを採用して)容量を増やすか、または昇圧変換回路を使用してより高い電圧を発生させることができます。これら2つの解決策はサポート目的で設計された変換ICを使用して非常に簡単に実装できますが、どちらの場合も標準のDC-DC変換回路の他に部品が必要です。この記事では、前述した解決策の代表的な2つの回路の他に、ホールドアップ時間が比較的短い「廉価版」の解決策も示します。その解決策では、コントローラーとコンデンサーのいずれも追加する必要がありません。
まず、2A双方向昇降圧DC-DCレギュレーター「LTC3110」およびチャージャー/バランサーをベースにした実装しやすいスーパーコンデンサー解決策から調べましょう。この解決策の電気回路図を図1に示します。
図1では、通常導通しているMOSFET Q1を介して、負荷とLTC3110昇降圧コンバーターに入力電圧が供給されます。VINが供給されているとき、LTC3110はスーパーコンデンサーを充電して、そのバランスを維持します。この回路では、3端子のスーパーコンデンサーは2つの積層型コンデンサーを連結したものです。充電処理中に、LTC3110はスーパーコンデンサーのバランスを安全に保ち(各積層型コンデンサーに加わる電圧を均等化し)、過電圧状態の発生を防止します。
VINが遮断されると、Q1がオフになり、元の電圧源から負荷が切り離されて、LTC3110はスーパーコンデンサーの電荷を負荷に放電します。この条件では、スーパーコンデンサーの電圧が満充電電圧の5Vでも、3.3Vよりはるかに低い電圧まで低下した場合でも、LTC3110は安定した3.3Vのレール電圧を維持します。RDT、RDBは、エネルギーが蓄積コンデンサーに対してどちらの方向に流れるかを制御する抵抗であり、RFT、RFBは負荷の電圧を設定する抵抗で、RBT、RBBは蓄積コンデンサーの最大電圧を設定する抵抗です。スーパーコンデンサーを使用するにもかかわらず、この解決策では高さの低い1mmのアプリケーションに対応することができます。
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