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サーミスタ(4) ―― PTCサーミスタとは中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(14)(2/3 ページ)

» 2017年12月20日 11時00分 公開

ポリマー系PTCサーミスタ(PPTC)

PPTCサーミスタの動作原理

 導電性コンポジット(複合材)のPTC特性の機構を完全に説明する理論はいまだ確立されていないようですが概要は次のように考えられています。
※以下、ポリマー系PTCサーミスタを単にPPTCと称します。

 導電性粒子を絶縁性のマトリックス(構造材)に混合していくと、当初はほとんど絶縁性ですが、ある臨界の体積分率(Vc)を超えると電気抵抗が急激に低下して、導体化する現象が起こります。
 導電性粒子同士が接触して伝導路ができると考えられますが、トンネル効果も考慮すると必ずしも導電性粒子同士が直接接触する必要はないのかもしれません。また、導電性粒子をさらに混入しても電気抵抗は混入比ほど低下しません。PTC特性は、このVc直後の伝導路が形成され始めた領域で現れます。

図2:PPTCの内部構造の遷移状態図 出典:2013-2014-Tyco-KairoHogo-Catalo-150129.pdf

 図2に示すように、導電性粒子に比べてマトリックスの熱膨張がはるかに大きい場合は温度の上昇とともにマトリックスがより大きく膨張して導電性粒子が引き離されるため、導電パスが切断されます。その結果、温度とともに電気抵抗が増大するPTC特性が現れます。このため機械的な部品とみなされることもあります。

 なお、導電性粒子としてはカーボンブラックやニッケル粉末が使われ、またマトリックスポリマーとしては結晶性のポリエチレンのように融点における熱膨張が急激で大きいものが用いられます。

PPTCによる微小電力回路の過負荷保護

 スイッチング電源の主出力回路の過負荷保護には1次側での電力制御と併せて2次側での過電流保護回路を使うことが一般的ですが、主出力回路と併せて設けられる補助出力(AUX出力)の過負荷保護には特別な注意が必要です。(AUX=Auxiliary)

 例えば、主出力が50W、AUX定格出力が5W程度で電力制御を1次側で共用していたとすればAUX出力からも50W程度を取り出すことができてしまいます。
 しかし、この時AUX出力の出力電流は10倍、電流経路のジュール損は100倍にもなり、トランスの巻線や2次整流ダイオードの温度を限度値以内に抑えることは困難になります。

 対策として電流ヒューズを使用することも考えられますが、セットの組み立て工程や電源の受け入れ検査において誤って負荷を短絡させてしまうことはコンマ数パーセントから数パーセント程度の確率で発生していますので電源の廃棄コストを考えるとリセッタブル型の保護回路が望まれます。この目的で用いられるのがPPTCを使った保護回路です。電圧精度が要求されないAUX回路では回路的な保護回路よりも安価なのでしばしば用いられます。

過電流(加熱)保護用PPTCとその使い方

図3:PPTCの構造 出典:図2と同じ

 図3にPPTCの構造図を示しますが図中の「導電性ポリマー」とは上記の導電性コンポジット材のことです。この素体に外装としてエポキシ樹脂がディップ塗装されています。
 このPPTCは次の2つのトリップモードがあります。

【1】自己発熱によらず、周囲温度の上昇によりTcを超え高抵抗化してトリップするモード。
 トランスのコアや巻き線、モーターの鉄芯などと熱結合させてトリップ後の高抵抗化によって電流制限を行ったり過熱信号を送出したりします。

図4:PPTCによる過電流保護回路

【2】負荷と直列にPPTCを挿入し、負荷電流による自己発熱でTcを超えトリップするモード(図4)。
 過電流対策として用いられるモードで、過負荷による各部の異常温度上昇を抑制します。

 ここではこの【2】の過電流対策モードについて説明します。

PPTCによる過電流保護動作

 図5に各部の電圧電流特性を示します。ここでサーミスタの静特性はグラフの特性に合わせてXY軸を入れ替えて線形化して表示しています。図1(b)とはイメージは異なりますが内容は同一です。
 ※PPTCの特性は周囲温度の影響を受けますので特性値のバラツキの他にも機器の設計温度範囲を考慮する必要があります。

図5:PTCサーミスタのトリップ動作

 ①電源の出力特性上で正常動作から徐々に出力電流を増加させていくとPPTCに印加される電圧も増加し自己発熱によってPPTCの温度がTcに達してトリップします。
 この時の電流がトリップ電流(IT)で、異常試験ではこのトリップ寸前で放置して温度上昇を測定しますので最低限度、この電流での温度上昇に耐える設計をしなければなりません。

 ②トリップ電流以上に出力電流を流そうと負荷抵抗RLを小さくすると相対的にPPTCへの印加電圧が増加しますのでPPTCは定電力域へ動作が移行し、正帰還作用(温度上昇→高抵抗化→印加電圧増加)で通過電流が保持電流値まで減少します。

 電圧が印加されている限りPPTCの高温状態が持続しますので負荷抵抗RLの異常が解除されても保持電流が流れ続けますが、一度電流を遮断しPPTCが常温に戻れば再度、通電することができます。

 なお、設計に当たっては、負荷抵抗がいきなり短絡され、異常電流が流れた時にも関連部品にダメージが残らないようにPPTCの各保証値、トリップ時間などの設計マージンを確認する必要があります。

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