前回に引き続き、DC-DCコンバーターの安全性に関して説明します。今回は、DC-DCコンバーターの「固有の安全性」と「本質安全」を取り上げます。
本質安全(次のセクションを参照)と混同しないようにしてください。固有の安全性は、故障により危険が生じないように回路のエネルギーレベルを低下させることにより、危険を取り除こうとすることです。化学工業で、危険な化学薬品を大量にではなく、少しずつ生産すると危険を大きく減らせることに気付いたことから、この原則が生まれました。
固有の安全性の4つの原則は、最小化、置換、調節、簡素化です。電源に当てはめてみると、最小限のエネルギーを蓄積する、中心的な1個の高出力電源を複数の小型の電力制限付電源で置き換える、電流が内部だけでなく外部にも流れるよう調節する、電源を簡単に使えるようにする(例えば、逆配線ができないように2極コネクターを使用し、給電可能状態を示すインジケーターを搭載するなど)、という考え方です。さらに、主電源を分離して環境的ストレスを受けることのない良好な環境に配置し、故障する可能性を減らすという考えもあります。
図1に例として、固有の安全性を有する電源設計の一部を示します。一次側のDC-DCコンバーターは、24Vのインダストリアルバスから電力制限のある電源を供給します。この例では、24V電源を使って絶縁された24Vの出力を5Wに制限しています。
直列接続のリニアレギュレーターは追加の電流制限器として利用しています(注:GND接続はフロート状態なので、レギュレーターが電流源として機能します)。標準の5Vレギュレーターを25Ω抵抗とともに使用すると、流れる最大電流は5/25 = 200mAです。これにより、電源電圧が24Vのときの最大出力電力は4.8Wに制限されます。二次側のDC/DCコンバーターは、24Vを基板レベルの電圧である3.3Vに降圧します。
このような電流制限のある電源回路の場合、実際には注意が必要です。電源投入時、二次側のDC-DCコンバーターの電流が不足するため起動が困難になることがあります。設計目的に反することになるので、入力容量を追加することはできません。この場合、出力電圧が安定するまで負荷を切断することが有用です(図1)。
もう1つの方法としては、例えば、入力フィルター容量を減らしてエネルギーの蓄積が少ないコンバーターにするなど、DC-DCコンバーター内部の部品に変更を加えます。
固有の安全性の概念は、高い起動電流を提供し、負荷過渡応答の速い低コストの高性能電源を求める商業的要求としばしば対立します。
本質安全回路は、電源のエネルギーを、可燃性ガスへの引火の可能性をもたらす局部加熱やスパークが生じない量に制限するといった設計をします。主な保護レベルには、単一故障と二重故障の2つがあります。また、電源が使用される環境「ゾーン」を考慮する必要があります。
ゾーン0の電源には二重故障(クラスia)、ゾーン1の電源には単一故障への保護方策を講じる必要があり(クラスib)、ゾーン2の電源は、爆発的雰囲気を可能な限り排除するために密閉、浸漬、または封止されていれば、故障保護不要とすることができます。しかし実際には、単一故障への保護方策もしばしば取られます。浮遊粉体は燃焼する可能性がある(粉じん爆発)ので、爆発性雰囲気の定義には粉じんとガスが含まれます。
ゾーン0(ガス) = ゾーン20(粉じん)、ゾーン1(ガス) = ゾーン21(粉じん)およびゾーン2(ガス) = ゾーン22(粉じん)です。主な違いは筐体の種類にあります(気密か防じんか)。
電源の場合、本質安全への適合には、使用する全てのコンポーネントのFMED(故障モード影響解析)に加え、ワーストケースの表面温度、ならびにピーク電流、ピーク電圧、MOSDE(Maximum Output Short-circuit Discharged Energy: 出力短絡時の最大放電エネルギー)といった電源内部の点火エネルギー源の解析を行う必要があります。
DC-DCコンバーターを使用すると、ガルバニック絶縁を行い、使用可能なエネルギー量を制限し、最小の空間距離と沿面距離を実現できることから、本質安全回路では重要な要素になります。本質安全の電源システムの例を以下に示します。2つのDC-DCコンバーターを、安全に絶縁することと、オープン回路でのDC電源電圧を爆発性雰囲気の点火電圧より低い電圧にするための両方に使用しています。
実用的ヒント
本質安全電源システムが標準的なアプリケーション分野は、地下鉱山、石油化学工場、製粉機、粉末食品の加工工場です。二重絶縁または強化絶縁を行ったDC-DCコンバーターは、一般に(ia)の保護レベルへの適合に必要な、二重故障への耐性を実現するために使用されます。DC-DCコンバーターを気密筐体内で使用する際は、通気の制限によりコンバーターが過熱しないように注意する必要があります。対策として、熱伝導性のギャップパッドを使って、コンバーターを筐体の壁面近くかヒートシンクの内部に装着する方法があります。
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