AC100V入力から5Vを生成する回路で、電圧設定回路のシャントレギュレーターのゲートには直列接続した2個の1kΩ抵抗による中点の分圧電圧が接続されていた。シャントレギュレーターのゲート電圧が2.5Vになるように5V側の抵抗に10kΩ(赤四角)を追加して、出力電圧を5.2Vへ下げた。しかしエラー表示は消えなかった。5.42Vの電位はエラー表示の原因ではなさそうだ。図4に示すが、追加した抵抗を赤四角で囲った。
基板に実装されているCPUの型名をWebで検索したがデータシートは見つからなかった。CPUのデータシートは開示されておらず修理の調査が手詰まりになってしまった。
困り果てていた中で突如、ひらめいた。
『この温調器は高精度のアナログ機器なのでマイナス電源を使用しているかもしれないぞ』
そこでマイナス電源の生成回路を探したらCPU基板上に電圧コンバーターICのTC7660のシルクが見えた。このICの出力電圧を確認したら−3.5Vしかない。この電圧は動作範囲外と思われる。おそらくErr2表示の原因だろう。TC7660コンバータ回路に実装された2個の電解コンデンサーを外し、セラミックコンデンサ―(赤四角)へ交換した。図5に示す。
コンデンサーを交換したらマイナス電圧は−4.75Vになり、パネルは正常な表示になった。動作不良の原因が明確になった。
外した2個の電解コンデンサーを単品で特性を確認したら容量は減っていなかったがESR(等価直列抵抗)が100Ω近くあった。図6に測定した結果を示す。
TC7660のチャージポンプ回路はマイナス電源をつくるため、高周波でコンデンサーの充電と放電の動作を行っており、ESRが低下すると充放電の電流が減り生成される電圧が下がってしまう。液体の電解コンデンサーは高周波で動作させると内部の発熱で、コンデンサーの性能が劣化しやすい。この用途には液体ではなく固体のコンデンサーが適切だろう。
TC7660のデータシートからマイナス電圧を生成する参考回路を図7に示す。
データシートではESR=1Ωで10kHz程度の周波数で発振し、負荷が70Ω程度であれば−4.3Vが生成されるようだ。ESRが100Ω近くまで劣化したため、マイナス電圧が確保されていなかったことが温調器の動作不良の原因だった。
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