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2つの式の導出(1)―― Lの定義たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(1)(1/2 ページ)

今回から電源設計の超初心者向けにDC/DCコンバーターの設計を説明していきます。この連載で主として使用する式はインダクタンスに関する式および、キャパシタンスに関する2つの式だけです。2つの式から導かれるインダクタンスとキャパシタンスの電気的性質を使って入門書などに記載されている基本的なコンバーターの設計をどこまで説明できるかを考えていきます。

» 2023年09月29日 11時00分 公開

連載にあたって

 今回から電源設計の超初心者向けにDC/DCコンバーターの設計を説明していきます。
DC/DCコンバーターの設計についてはICメーカーの販促資料や市販の書籍で詳細な波形を求める式が紹介されていますが、インダクターやキャパシターの性質についは詳しくは説明されていません。なぜその性質を持つのか理解のないままに設計を進めていくとトラブルの前兆であるちょっとした異常波形を見逃す可能性もあります。
 詳細な式は手間の割には、設計精度は思ったほど向上はしません。計算で使った寄生のLC成分を持つデバイスを実際に入手できるとも限りません。加えてデバイスの印加電圧、電流のピーク値などが詳細な計算式で72.8%、簡易計算で65%と得られても素子の定格値にはほとんどの場合影響はしません。つまり、設計初期段階で詳細な式を使用するメリットはほとんどないと言えます。
 一方、簡便な式は市販の書籍などでいくつか紹介されていますがこの連載で主として使用する式はインダクタンスに関する式および、キャパシタンスに関する2つの式だけです。
 そしてこれら2つの式から導かれるインダクタンスとキャパシタンスの電気的性質を使って入門書などに記載されている基本的なコンバーターの設計をどこまで説明できるかを考えていきたいと思います。

 その他には理解を深めるために2つの式が意味する図と、図に基づいた波形の計算を行います。図式の計算ですので式の意味は容易に理解できます。
 なお、本連載で使用する式はこのように基本的な式ですが部品の要求仕様を決めるには十分な精度を持つものです。

使用する2つの式の導出

 2つの式の導出までは数学の微分を使いますが実際に設計に使うのは導出された2つの式です。数学が苦手な方は式が導出される箇所まで読み飛ばしてください。

1. インダクタンスに関する式

「インダクタンスとは何ですか?」の話しですが電磁気学の定義*によれば

「電流Iが作り出す磁束をΦとした時、電流Iに鎖交する磁束Φと電流Iとの比」

を自己インダクタンス、あるいは単にインダクタンスと呼び "L" で表します。
 この定義を式で表せば

1式

です。また電磁気の現象には次のファラデー則もあります。

ファラデー則
1つの回路に電磁誘導によって生ずる起電力(=電圧)Eは磁束数の時間変化の割合に比例する

 この内容を式で表せば2式になります。

2式

 これらの関係から次の3式が導かれます。
 まず1式を時間で微分し、左辺に2式のファラデー則を適用します。

3式

 さらに3式を微少時間Δtで近似し、移項すると4式を得ます。

4式

 4式は以後の設計に頻繁に使用しますので覚えておいてください。ここでは表題の「2つの式」の意に従って3式、または4式を“Lの式”と呼ぶことにします。またインダクタンスの性質を持つ素子をインダクターと呼びます。

*用語の説明
 定義:ある概念や言葉の意味を他のものと区別できるように明確に限定されたもの
    定義は決めごとなので「証明できません」。
 法則:条件付きの「定義」
 公理:証明できないが、正しいと仮定して論理の出発点におくもの
    (物理では原理とも言う)
 定理:定義や公理から証明することができるもの

微分とは?

 数学的な内容はさておき、微分とは式が常に

式

のような分数表記になっていることから分かるように

何かの変化量(d〇〇)に対応した別の何かの変化量(d××)の比であることを表しています。例えば前出の

式

とは「磁束の変化量(dΦ)と変化時間(dt)の比率は電磁誘導による起電力(E)に等しい」 ということになります。微分とはこの変化量(幅)を無限小とした場合の極限値でありdで表します(微分を意味する“differential”の略号です)。
 1n(10-9)、1μ(10-6)、1m(10-3)などの無限小でない有限の微少変化量(幅)の場合はΔで表記されるのが一般的です。

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