このAVR MCU、高い性能と相対的に安いコストということで広く利用され始めていった。Atmelも製品ラインを拡充。まずAT90S系(これはClassic AVRと呼ばれる様になった)の製品ラインアップを増やしたあと、周辺回路を削減すると共に消費電力を下げ、省スペースパッケージで提供されるtinyAVR、最大でFlash Memory 256KB/SRAM 16KB/EEPROM 4KBまで増量したmegaAVR、そして動作周波数を最大32MHz(tinyAVRやmegaAVRは最大20MHz)とし、独自のADCなどを搭載したりDMAコントローラーを搭載したりした高性能版のXMEGA(megaAVRの派生型)などのラインアップを作り、製品展開をどんどん充実してゆく。発売から6年後の2003年、同社はAVR MCUの累計出荷個数が5億個を超えたことを発表。8bit MCUにおけるマーケットシェアは30%に達したとしている。そして2005年、イタリアのArduino LLCがmegaAVRに属するATmega328PをArduino Duemilanoveとして採用した事でさらにAVRの知名度が上がり、出荷個数も増加した。
Arduino自身が容易な開発環境を提供した事で、ホビーあるいはPoCの構築をArduinoで行う、という動きは2010年頃まで続いた(このマーケットを奪っていったのは後発のRaspberry Piである)。さすがにArduinoのSketch(Arduino環境で動作するプログラム)のままだと性能的にいろいろと不満は残る事になるが、それはArduinoではなく直接プログラムを記述すればそれなりの性能が確保されるので、あとは便利さをとるか、性能を取るかといった選択が開発者の手に残されたのは好ましい話である。
2016年、AtmelはMicrochipに買収される。ただMicrochipはAVRに関しては製品ラインを存続させたのみならず、Microchipの技術(例えばCIP:Core Independent Peripherals)を組み合わせた新しいAVR MCUをラインアップに追加するなど、まだAVRは現役で使われている。とはいえArduino Projectは同じくmegaAVRを利用したArduino Unoを最後に32bit MCUに移行を始めている。もうPoCも8bitでやれる時代ではなくなってしまった、という事かもしれない。
Microchipの買収に先立つ2013年にBogen氏はAtmelを辞して、ノルウェーのEnergy MicroにCMOとして加わるが、同社がTexas Instruments(TI)に買収された時点で離脱。その後Vitalthingsの創業に協力し、現在は同社のCIO(Chief Innovation Officer)を務めている。一方Wollan氏はMicrochipの買収のタイミングで離脱し、いくつかの会社のCEOを経て2024年からNordic SemiconductorのCEOに就いている。ある意味里帰りというか、元に戻ったというか。その2人が生んだAVRは現在も生産され、もうだいぶ市場が縮小しつつある8bit MCUのマーケットで健在である。
⇒「マイクロプロセッサ懐古録」連載バックナンバー一覧
スマホが変えた組み込みのエコシステム 波にのまれて消えた「MIPS」
先見の明が支えたMotorola「MC68000」 PowerPCの陰でロングセラーに
表舞台に上らなかった「世界初」のプロセッサ、MP944
登場して半世紀、多くの互換品を生んだIntel「80186/80188」
32年ぶりの新製品も 波乱万丈だったMotorola「MC6800」
ファミコンにも採用された「MOS 6502」、その末路をたどるCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.