マルチフェーズのインターリーブは単相よりも設計は複雑だが、発熱や基板面積、さらにはコストをも抑えられる。
低い直流電圧から高い直流電圧を発生する場合に昇圧型スイッチング・レギュレータを使うが、より高い電力の出力が必要な場合、単相では電力を供給できないことがある。2相の昇圧型スイッチング・レギュレータのインターリーブは、分析上そして経験的に、効率や外形寸法、コストの面で単相よりも勝る。
250Wの昇圧型スイッチング・レギュレータにおいて、単相のスイッチング・レギュレータと2相をインターリーブしたスイッチング・レギュレータの出力電圧を評価し、その結果を比較した。これによると、2相をインターリーブしたスイッチング・レギュレータの回路は複雑だが、比較的高い性能を得られることが分かった。
本記事の執筆は、インクジェットプリンタ用ソレノイド・ドライバ向けの電源の回路構成を考えたことがきっかけだった。この作業に、単相および2相の昇圧型スイッチング・レギュレータの回路評価が含まれていた。電源の仕様は、入力電圧は直流12Vで、出力は直流37V/7Aである。入力電流は20Aを超える可能性があった。最初は単相とマルチフェーズとで、どちらが最適なのかよく分からなかった。回路部品にかかるストレスを軽減するため、降圧型スイッチング・レギュレータのように2相とし、プリント基板に放熱しなければならないことも考えられた。
表1は、電源の要件を示している。出力電圧を許容範囲に保つためのソレノイドの励磁・消磁によって、電源は大きな電流サージにさらされる。また、温度上昇を許容範囲内に留めておくには高効率であることが重要だ。37V/7Aの出力からは250Wを超える電力が負荷に供給される。効率91%の場合でさえも25Wを消失し、複数のヒートシンクが必要となる。表1には書かなかったが、電源の基板面積とコストも重要だった。
図1は、2つの昇圧型スイッチング・レギュレータ、単相と2相を比較している。上側の1つのインダクタを使用したモジュールが単相、下側が2相のインターリーブ機能付きのスイッチング・レギュレータである。単相のスイッチング・レギュレータには約18平方インチのプリント基板が必要なのに対し、2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータは14平方インチである。両者の大きな相違点は、インダクタ、出力キャパシタ、ヒートシンクである。インダクタの高さは、単相よりも2相の方が低い。
図2の回路図は、単相の昇圧型スイッチング・レギュレータと2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータを示す。単相の回路動作は以下の通りである。FET Q1にゲートバイアスを加えてオンにし、入力電圧がインダクタL1に印加した状態でドレインの電位をグラウンドに落とす。L1に流れる電流が増加する。この間、出力コンデンサC2のみで負荷電流を供給しなくてはならない。Q1がオフになると、L1は電流を維持するために、逆起電力を発生する。この時、入力電圧とダイオードD1の順方向電圧よりもスイッチング・ノードの電位が高くなり、出力コンデンサを充電して負荷電流を供給する。Q1のオンとオフ、2つのスイッチングの状態では、インダクタの印加電圧と印加時間(ボルト×マイクロ秒)の積のバランスが取れていなくてはならない。すなわちd/fS×VIN=(1−d)/fIN×(VOUT−VIN)からVOUT=VIN/(1−d)という関係式が導出される。dはデューティ比、fSはスイッチング周波数、VINは入力電圧、VOUTは出力電圧を表す。この式は、インダクタに常に電流が流れるCCM(連続誘電モード)で成立する。
インターリーブする2つの昇圧型スイッチング・レギュレータ(図2)の動作は単相の昇圧型スイッチング・レギュレータと同じだが180°位相をずらして動作するため、入力コンデンサと出力コンデンサのリップル電流を互いに打ち消し合う。ただし、均衡に電力を供給する様に負荷電流を共有する必要がある。一方の昇圧型スイッチング・レギュレータが他方よりもかなり大きな電力を供給してしまうと、リップル電流を打ち消すことができない。
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