組み込みシステム設計に最適なプロセッサを選ぼうとするとき、今日では数多くの選択肢がある。マイクロプロセッサやマイクロコントローラ、DSP(digital-signal processors)の他に、米Analog Devices社、独Infineon社、米Microchip社、米Freescale社などから数種の統合マイクロプロセッサも提供されている*1)。これらソフトウエア・プログラマブル・デバイスは、マイクロコントローラとDSPの機能を組み合わせ、1つの命令エンジンで制御と信号処理を行う統合プロセッサ・アーキテクチャに基づいている。最近では、新しいシリコンチップや、より成熟したツールを使用することで、プログラマブル・ロジックを信号処理アルゴリズムのカスタムアクセラレータとして効果的に利用できるようになっている*2)、*3)。
デジタル信号処理機能を組み込んだエレクトロニクス製品の増加に伴い、競合する半導体企業から様々な主張や予測が聞かれるようになった。その主張の1つは、計算負荷の大きいアプリケーションの場合、デジタル信号処理にはDSPよりもFPGAの方が適しており、FPGA内にプロセッサコアを追加すればDSPを使用せずに済むというものである。同様に、シグナル処理を必要とするアプリケーションについては、統合されたデジタル信号処理拡張機能を組み込んだマイクロプロセッサ・アーキテクチャでDSPを置き換えられるという主張もある。
これらの主張は、ハイエンドの領域ではFPGAが、ローエンドの領域ではDSP機能を内蔵したマイクロプロセッサがDSPの領域を侵食しつつあることを示唆している。しかし、組み込みシステム設計においては、DSPをFPGAや統合マイクロプロセッサで置き換えることは、8ビットのプロセッサを32ビットのプロセッサで置き換えようとすることに等しい。言い換えれば、組み込みシステム設計には依然としてDSPが使用されているし、8ビットあるいは4ビットのプロセッサでさえまだ消滅してはいない。事実、半導体ベンダーはここ1、2年の間に、「競争と交替」から「共存と補完」を目指すスタンスにシフトしつつある。この変化はDSPとFPGAのサプライヤに最も顕著に見られる。
半導体ベンダーがこの流れをはっきり認識するまでには時間がかかったが、ユーザーには早い段階でこの流れが見えていた。設計上の制約条件にはそれぞれに最適なプロセッサアーキテクチャがある。大量生産される民生機器向けアプリケーションでは、絶えず新しい機能を搭載しながら多機能を1つのエンドシステムで提供しなくてはならないため、設計には多様なトポロジで組み合わされた複数のプロセッサ・アーキテクチャが利用されつつある。競争関係から補完関係へのシフトによって今後期待されることは、複数の処理技術を同時にサポートできる開発ツールやデバッグツールが提供されることだ。
異なるプロセッサ・アーキテクチャを1つの設計に混在させることで、開発者はシステムにかかるコスト、消費電力、設計の複雑さを低減し、製品化までの時間を短縮できる。また、保守が容易になるため、繰り返し派生する設計サイクルにおける開発期間も短縮できる。なぜなら、プロセッサ・アーキテクチャごとの特長を活かして、処理要件を効率的に満たせるからだ (別掲記事「プロセッサ・アーキテクチャの特長」を参照)。
※1…"Control and Signal processing : Car one processor do it all ? EDN, March 7, 2002, pg 63.
※2…"EDN hans-on project : Accelerate your performance" EDN, Nov 11, 2004, pg 50.
※3…"EDN hans-on project, part2 : Automate your acceleration" EDN, Dec 7, 2004.
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