QCシステムがどのように機能するのかを見ていく前に、量子原理について簡単に復習し、従来の信号や電力などと比較しながら概念をつかむのがよいだろう(別掲記事「違う角度から考える」参照)。QCシステムは、単一光子源と一対の偏光フィルタから始まる(図1)。光子の生成は容易なことではない。まず、1つの偏光フィルタ(直線フィルタ)が、垂直偏光または水平偏光をもつ光子だけを通過させる。もう1つのフィルタ(対角偏光フィルタ)は、水平方向または垂直方向に対する入射角度が±45°の光子だけを通過させる。基準とするフレームは任意である。1つの方向を水平と定義して、これを他の角度の基準方向として用いるだけでよい。
光源が生成する各光子を、送信者(関連文献で“Alice”と名付けられることが多い)が、任意に直線フィルタまたは対角フィルタのどちらかを通過させる。直線フィルタを使用する場合、Aliceは通過する光子が水平偏光か垂直偏光かを記録する。対角フィルタを使用する場合は、光子の偏光が右45°か左45°かを記録する。その後、1ビットのデータを表す1つの光子が光ファイバまたは自由空間を通して送られる。
関連文献で一般に“Bob”と名付けられる受信者側では、入ってくる光子を直線フィルタと対角フィルタのどちらで観察するのかを任意に選択し、使用するフィルタと偏光値、つまり水平か垂直、あるいは45°か−45°を指定する。この値がビット値となる。Bobは入ってくるすべての光子に対してこの手順を繰り返す。その後、Bobはオープンで非セキュアなチャンネルを通じてAliceに連絡を取り、Bobが使用したフィルタのシーケンスを伝える。このシーケンスを使用してBobが記録したビット値「キュービット」は伝えない。
AliceはBobに、Bobが使用したフィルタ方向のうちどれが正しかったのかをオープンチャンネルを介して伝える。Bobがビット値を伝えなかったので、Aliceはビット値に言及しない。AliceとBobは、メッセージを暗号化・解読するための鍵として正しかったモードのインスタンスを使用し、光子が正しいモードで観察されなかった位置は無視する。
慣例的にEveと呼ばれている盗聴者についてはどうだろうか。Heisenbergの原理によると、Eveが直線モードと対角モードの両方で光子を同時に測定することは不可能である。さらに、Eveが勘に頼って間違ったモードで測定を行うと、その測定方法でビットがBobに再送信され、エラーとなる。AliceとBobは、選択したビットを比較して、それらのビット対についてエラーチェックを行うことで、盗聴があったことを検出できる。
このQC手法はセキュアリンクのニーズに合致している。AliceからBobにセキュアキーを送信する場合にも、ワンタイムキーを作成してメッセージビットと一緒に送信する場合にもこの手法を利用できる。しかし制約はある。まず、光子の量子状態はあらゆる光または電気光学中継器・増幅器によって破壊されるため、干渉のない単一のリンク上でしか利用できない。電気通信用の標準的な低損失ファイバを利用するQCリンクは約100kmまで延長でき、受信側で慎重に焦点を合わせた望遠鏡を使用する自由空間リンクは夜間で20kmまで延長できる(太陽の光が影響することから日中の使用は難しい)。しかし研究者たちは、適切な光部品を使用すれば、低軌道衛星から地上基地局へのリンクを確立することは可能と考えている。
2つ目は、一部の光部品の制約とプロトコルの複雑さにより、データレートが比較的低くなるということだ。QCを利用してセキュアキーを送信する場合、そのリンクで達成されるデータレートは約5Mビット/秒である。ワンタイムキーの場合は、鍵の要素が700ビット/秒で送信される。
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