単一光子の生成は難しく思えるかもしれないが、その補完的な課題に比べればまだましである。「単一光子検出器はまさに悪夢だ」とElliott氏がいうように、現在の検出器はシステムの実装を難しくする要因となっているのだ。広く普及しているシリコンベースの検出器は、自由空間リンクの可視光子波長の検出に適しているが、ノイズを減らすためには−40℃まで冷却しなくてはならない。
BBN社のシステムでは、ファイバを利用したQCリンクに、−50℃に冷却されたInGaAs/InP(インジウム−ガリウムヒ化物/インジウム燐単結晶)光検出器を利用している。残念ながら、この検出器は量子効率が低く、照射される光子の10〜20%しか電気パルスに変換できない。Elliott氏のチームは、パフォーマンスを上げるために2〜4Kで動作する、窒化ニオブを使用する超電導検出器を作製している。このタイプの検出器では、入射する光子がその超電導モードから結晶にぶつかり、その結果結晶から電気信号が生成される。InGaAs/InP検出器の動作周波数が数MHzであるのに対し、これらの検出器は10GHz〜100GHzで動作することが可能なため、システム全体のスループットに対する1つのボトルネックが解消される。検出器を数Kまで冷却しなくてはならないが、これは大した問題ではない。「驚いたことに、2万米ドルも出せばかなり良い冷却装置を入手できる」とElliott氏は言う。
光子の検出に使用される結晶も確かに重要だが、それだけでは機能しない。単一光子検出器はラックマウント型のシャーシに他の電子部品が組み込まれたもので(図5)、DARPA量子ネットワークはこのような手製の装置をIBM社アルマデン研究所(カリフォルニア州サンノゼ)で12台作製した。そのうちの6台はBBN社にある。2005年10月、IBM社はQCの商用化を促すため、この技術を米Princeton Lightwave社(http://www.princetonlightwave.com)にライセンス供与した。
ファイバを利用したQCリンクでもう1つの鍵を握るのは、光位相の調整とマッチングを行う干渉計である。1台がBBN社に、もう1台がハーバード大学に置かれている。光の波長が、波長の数分の1未満の誤差で一致している必要があり、厳しい要件が設定されている。現在の設計では、慎重に制御されている標準的な電源が、干渉計に組み込まれているニオブ酸リチウム位相変調器に微小な電圧差をかけ、その圧電効果が結晶の大きさを変化させる仕組みになっている(以前圧電アクチュエータに使用されていた手法の改善版であり、よりシンプルになっている)。干渉計全体は、ホーム・ディーポー(米国の日用品店)で購入できるような厚さ8cm弱の発泡ポリスチレンでできた完全遮光ボックスで覆われている。これは熱作用を最小限に抑えるためQCリンクを完全防護する方法の1つにすぎない(図6)。
単一光子源とその検出器も、干渉計やそのボックスと同じようにカスタムメイドである。残りのほとんどは、電子または光の標準的なテスト、測定、処理機器である。「残りは電気通信機器だ。高速でしかも安い」とElliott氏はいう。さらに、「これらの機器のほとんどは市販品だ。誰でもクレジットカードで購入して自宅で組み立てられるだろう」とも付け加える。設計と実装には数え切れないほどのIP(知的財産)が必要であるからやや大げさだが、この言葉からはQCシステムに手頃な価格で高性能の電気・光通信機器がいかに活用されているかを伺い知ることができる。
システムは全体的に複雑ではあるものの、自ら自動キャリブレーション、起動モード、自己テストモードを実行するほか、連続データスループットをサポートしている。コールドスタートからの場合は、QCリンク全体が使用可能になるまで30秒とかからず(コントローラとして使用される各種パソコンのOSとドライバの起動時間を除く)、この時間のほとんどが干渉計の調整に使われる。次のステップは、パソコンの使用範囲を減らしてFPGAにできるだけ多くの制御機能を組み込み、システムをより小さく、安く、ハードウエアベースにすることだとElliott氏は述べている。
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